2019 Fiscal Year Research-status Report
運動が糖尿病性微小血管障害を改善するメカニズムの解明
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18K10882
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
曽野部 崇 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (70548289)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 糖尿病 / Goto-Kakizakiラット / 微小血管造影 / angiography / exercise hyperemia |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,糖尿病患者においては骨格筋の血流分配に影響を与える末梢抵抗血管の拡張機能が低下することが,運動耐容能の低下を引き起こし,身体活動量の低下・血糖コントロールの不良という悪循環を生み出すことでQOL低下の一因となっているという考えのもと,末梢血管のどの部位が,どのように機能低下しているのか,どの血管拡張因子が影響を受けているのかについて明らかにすることを目的としている.
(1)初年度に確立した,麻酔下ラットを対象とした筋収縮誘発性の血管拡張機能評価法を用いて,抵抗血管・細動脈における寄与が大きいとされている内皮依存性過分極(EDH)由来の血管拡張が,骨格筋の動的収縮に伴う血管拡張に対してどの程度貢献しているかを調べた.EDHの因子の一つであるCa2+依存性K+(KCa)チャネルの阻害薬apamin(small-conductance KCaチャネル阻害薬)とcharybdotoxin(large-conductance KCaチャネル阻害薬)を麻酔下のWistarラットに静脈内投与すると,持続的な血圧の上昇が生じたが下肢血管径は投与前と同等に保たれていた.次に,筋収縮による血管拡張応答を阻害薬投与前後で比較したところ,導管血管も含め,内径50~100 μm前後の細動脈では血管径の拡張率に差は見られなかった.
(2)本実験手法を用いて糖尿病が筋収縮誘発性の血管拡張応答に与える影響を調べるため,非肥満2型糖尿病モデル動物であるGoto-Kakizaki(GK)ラットを対象として実験を行った.安静時におけるGKラットの下肢血管径は,Wistarラットと同程度であった.筋収縮後の血管拡張応答もWistarラットと比べて同程度であった.これらの結果は当初の予想に反し,GKラットでは,筋収縮に伴う下肢血流の再分配能力が保たれていることを示唆するものであった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,初年度に確立した実験手法を用いて,連続的な骨格筋の収縮に応じて生じる血管拡張に対する内皮依存性過分極(特にKCaチャネル)の寄与を調べ,さらには糖尿病モデルGoto-Kakizaki(GK)ラットの骨格筋収縮誘発性血管拡張応答を調べた.現在までに,1)KCaチャネルの阻害条件下では,筋収縮後に生じる血管拡張応答は抑制されないこと,2)GKラットでは,筋収縮後に生じる血管拡張応答は保たれていることが分かってきた.この結果は当初の,GKラットでは下肢微小血管の機能低下により運動時の血流分配が障害されている,という仮説に反していた.計画段階では,GKラットに対して習慣的な運動トレーニングを行うことで,血管拡張能の低下を改善できるかどうかについて検討する予定であったが,ここで異なる動物モデルを用いて再検討することにしたため,当初の研究計画より遅延が生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で糖尿病モデル動物として用いたGoto-Kakizaki(GK)ラットは,非肥満型の2型糖尿病モデルであり,日本人における糖尿病の病態を再現するとされている.しかしながら我々の実験結果では,糖尿病の病態マーカーであるHbA1c値がGKラットでは正常範囲内であったことも併せて,高血糖状態の持続による微小血管障害モデルとしては適切ではなかった可能性がある.そこで,異なる2型糖尿病モデルラットであるZFDMラットを用いて同様の実験を行うことを計画している.予備検討では,ZFDMラットは顕著に高いHbA1c値を示すことが分かっている.その後,GKラットにおける血管拡張応答と比較することで,骨格筋収縮に応じて生じる下肢血管拡張は,糖尿病の病態に依らず保たれるのか,それとも糖尿病の病態に依存して低下し,運動耐容能に影響するのかについて検討する.
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Causes of Carryover |
前年度からの繰り越し分に加え,本年度行った研究計画の軌道修正に伴う研究の遅延により次年度使用額が生じた.また,年度末にかけて予定されていた国内・国際学会がすべてキャンセルになり、交通費・宿泊費用については全額払い戻しとなったため、大幅な未使用額が生じた. 次年度には軌道修正を行った研究計画に基づき,主に機器・消耗品の購入などに充当する.
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