2019 Fiscal Year Research-status Report
精神保健と学校適応の向上を目指す大学生向け精神保健教育プログラムの開発
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18K10921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大島 紀人 東京大学, 相談支援研究開発センター, 講師 (70401106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 健康教育 / 精神保健 / 大学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大学生を対象とした精神保健教育プログラムの開発を継続し、一部作成できたプログラムについて、大学生メンタルヘルス講義で試験的に実践した。 【大学生の精神保健学習状況とその効果の検証】 初年度に実施したアンケート結果の分析に基づき、プログラムの目標を「高校までの保健学習を復習しながら大学生活の実践に活かす」こととした。プログラムは少人数の参加型ゼミ形式を想定し、①精神保健学習の必要性の認識向上、②重要かつ習得状況が低い高校までの保健学習項目の復習、③これをテーマに現在の大学生生活に根差した精神保健の問題について話し合うグループワークより構成した。作成したプログラムは、大学生を対象としたゼミ形式の講義で試行し、参加者の評価を受けてbrush upを行った。 【精神不調、学校不適応に関連する要因の分析】 ①大学生の精神的健康に影響を与える生活習慣の縦断的変化:「注意すべき睡眠」に注目し、睡眠の長さ(6時間未満、9時間以上)、睡眠の不規則さ(休日が平日より2時間以上長い)場合、不安・抑うつと有意な関係を示せた。この関係をもとに、入学後について縦断的に睡眠習慣を調査したところ、入学時に良好な睡眠をとる学生は60.5%で、このうち1年後に良好な睡眠を維持する者は64.2%にとどまることが明らかになった。②精神科受診、相談歴と入学後の精神状態、学業成果の関係:大学新入生6058名を対象に、入学後の留年と関係する因子を調査した。9時間以上の睡眠(オッズ比OR = 2.889)、不登校歴(OR = 2.797)、誠実性、精神科受診歴などが統計的に有意であった。入学時の精神的健康や相談相手の数は留年と有意な関係を認めなかった。 【成果発表】 上記成果について、関連学会で成果発表を行った。作成したプログラムは大学生を対象としたメンタルヘルス講義で試用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い予定通り研究を進めることができた。 初年度の精神保健学習に関するアンケート調査結果に基づき、プログラムの目標を「高校までの保健学習を復習しながら大学生活の実践に活かす」と定め、これを講義1コマ分(90-105分)で実施できる、参加型のゼミ形式に構成した。作成したプログラムは、大学生を対象としたゼミ形式の講義で実際に活用することができた。作成したプログラムの評価について今年度は、参加者からフィードバックを受けてbrush upを行った。 講義形式のプログラムについては、講義で取り上げるべき要素(大学生の生活に影響するメンタルヘルス要因)に関連する解析を進めた。①生活習慣について、大学生の生活の現状を踏まえた健康教育ポイントを明らかにする、②精神的健康度に加え、学業成績を目的変数として、これに関連する要素を明らかにする、という2つの方針で検討を続けている。今年度は、①については「睡眠」、②については新入生を対象に、入学後の精神的健康度、学業成績(留年)と関連する因子をテーマとした。従来は「睡眠を十分とる」といった一般論に近い指導が行われることもあったが、本研究の成果により、睡眠時間、睡眠のばらつきの観点からより具体的な指導内容を教育プログラムに盛り込むことができた。新入生の入学後のメンタルヘルス、学業成果に関連する因子を求める研究では、入学時の健康診断で得られるデータの中から、有意なものを選抜できた。この成果に基づいて、入学後に支援が必要となる学生群を判別する/入学後の健康的な修学のために優先的に指導すべき事項について明らかにできた。 得られた成果は計画通り医学、教育学両分野で成果発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進捗しており、当初の研究計画通りに遂行する。 ①大学生向け精神保健教育プログラムの実践:作成した教育プログラムを大学生対象の講義で実践する。対象者を複数の大学に広げて普及をはかる。 ②大規模講義形式の精神保健教育プログラムの完成:今年度まで、プログラムで取り上げるべきテーマに関連した、大学生実態データの解析を進めてきた。特に、入学時の精神保健の所見から入学後のメンタルヘルス、学業成果を予測する解析の結果は、大学新入生のメンタルヘルス向上に資すると考えられる。今後は、得られた結果をもとに、大規模講義形式100分程度(授業1コマ分)のプログラムを作成する。 ③教育プログラムの効果測定:これまでに、小規模なゼミ形式でのプログラム実践を行い、参加者によるプログラムの質的な評価を得た。今後は、本プログラムの特徴である、メンタルヘルス、学生生活(学業成果含む)に資する、生活習慣や精神疾患の知識の獲得まで踏みこんだメンタルヘルス素養の育成を授業時のアンケートにより評価する。 ④研究成果の発表:開発した精神保健教育プログラムの普及を図るため、大学保健関連の学会で成果発表する。
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Causes of Carryover |
1 コロナウイルス感染症流行の為、学会・開発したプログラムを試行するための他大学視察が延期となり、年度内に旅費が発生しなかった。 2 前記1による、論文作成が年度内に行えず、英文校正等の関連費用の発生が延期となった。 3 物品費については、ソフトウエアアップデートが管理費として「その他」に算入されたため、差額が生じている。
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