2021 Fiscal Year Research-status Report
スポーツの文化的意義を学ぶ体育理論の授業モデル-民俗フットボールを教材として-
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18K10980
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
吉田 文久 日本福祉大学, スポーツ科学部, 教授 (30191571)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 体育理論 / 民俗フットボール / スポーツの文化的意義 / 授業モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中学校・高校の体育理論に設定されている「スポーツの文化的意義」に関する単元の学習教材として「民俗フットボール」を位置づけ、その授業を構想し、授業モデルを提案することを目的とし、今年度も取り組んできた。しかし、昨年度同様にコロナ禍は収束することなく、予定していた研究計画を進展させることができなかった。そのため、昨年度から引き続いて予定した海外調査は今年度も実施できず、また、授業実践も思うような取り組みができなかった。そこで、来年度も研究期間を延長申請をして何とか成果を上げる取り組みをしたいと考えている。 そのような状況の中でも、今年度、中学校3年生において「文化としてのスポーツの意義」を学ぶ実践を授業者と協議を重ね試行的に行うことができ、一方で、昨年度に実施した中学校2年生の「運動やスポーツが心や社会性に与える効果」の単元の授業を再考し、再度実践を行い、その成果を日本スポーツ人類学会第23回大会において口頭発表を行った。それは、日本スポーツ人類学会が研究課題として掲げる「研究成果の学校教育への教育還元」という課題に対する「体育理論」の授業の先行的実践の試みであり、「民俗フットボール」の教材的可能性の検討及びスポーツ人類学研究成果を体育理論の授業に還元するための手続きについて提案した。授業者との協議・検討は、コロナ禍において中学校、大学のそれぞれの事情があり、思うように時間をとって行うことができなかったが、その中でも、学会で発表できるところまでに至ったことは、今年度の大きな成果として捉えている。 なお、高校での実践は、当初予定をしていた授業者が転勤することになったという事情もあり、それに代わる授業者を得ることができないままであった。研究と直接な関係はないが、本研究で取り上げている「民俗フットボール」について、筆者がこれまで取り組んできた研究成果を著書として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の実施に当たり、授業者として2名の中学校保健体育科教員、体育科教育学研究者1名の計3名に本研究期間の2年目から協力要請し取り組んできている。筆者を含めた4名で、昨年度は、2回の授業参観を含めて10回(Zoomによる会議も入れて)の協議の場を持ち、検討を重ねた。その中では、最終目標である3年生の「文化としてのスポーツの意義」を学ぶ授業構想・授業モデルの提示に向けて、「民俗フットボール」が教材として有する価値について筆者の私案を再検討した。そこでの議論により、生徒にとって「文化」をどのように理解させることができるかという検討に至り、筆者が構想していた授業モデルを再構築することとなった。この作業は大変重要であり、研究者が構想したものをそのまま授業者に実践してもらうということも可能であったが、授業者や生徒の目線で組み立て直すことで、より実際的な授業モデルを提示できると思われる。 そのような協議に基づいて、当初計画していたように、2学期に「文化としてのスポーツの意義」の実践を試行的に行い、一方で、昨年度実施した中学校2年生の「運動やスポーツが心や社会性に与える効果」の単元の授業についても、「民俗フットボール」の教材としての有効性について十分な協議・検討を行い、改めて実践し、その成果をもとに学会において授業のモデルを提示するところまで取り組むことができた。これについては、2年生、3年生と生徒が連続して「民俗フットボール」という教材に触れることで、「民俗フットボール」の理解を深め、それがもつ文化的価値を知ることにもつながり、想定された学習内容を習得するのに大いに役立つことを示すことができた。3年生の「文化としてのスポーツの意義」の授業については引き続き次年度検討する。 なお、ビデオ教材をより効果的なものとするためにKirkwallに調査に出かけることはコロナ禍のため実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標である「文化としてのスポーツの意義」の単元の授業構想及び授業モデルの提示という課題に対して、コロナ禍によって、今年度1年延長を認められ取り組んだが、十分な取り組みができず、再度1年延長して取り組むように手続きをしている。 そこで、そのために昨年2学期に試行的に実施した授業の総括、また学会発表や研究会での発表の中で受けた指摘などを基にして、また授業分析方法などを再考するなどして再度実践を行い、授業モデルの提示まで進展させ、研究をまとめたいと考えている。しかし、昨年「文化としてのスポーツの意義」の単元の実践を行ってくれた授業者が2022年4月から小学校に異動することになり、もう一人の研究協力者に実践をしてもらわなければならなくなったことから、検討の時間を多くもつ必要が生まれた。中学校の事情も踏まえると、その実践は2学期にならざるを得ず、十分に検討して実施し、成果を生み出したい。 授業において、生徒に「民俗フットボール」を理解させるためのゲームとして位置づけているKirkwallのゲームについては、昨年、それに限定することにし、現地に訪問し、「ゲームの楽しさ」、「存続への思い」など住民の生の声を収集・記録し、生徒に聞かせようと計画したが、それができなかった。コロナ禍の状況にもよるが、次年度もその調査を位置づけて取り組みたい。もし、それが叶わない場合には、eメールやZoomなどを用いて取り組むことも考えたい。 そのような活動の一方で、体育理論の授業実践の取り組みが低調であるという現状に対して、4名で議論をする中で、これまでの筆者たちの共同研究を学校現場に紹介することも必要であるという考えに至り、並行してその活動にも取り組みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度同様にコロナ禍が収束せず、行動規制が求められ、研究計画を十分遂行することができなかった。特に、英国スコットランドの Kirkwallに調査に出かける予定をしていたが、渡航制限によって実施できず、そのために予定していた経費(渡航費、調査関係費など)の支出がなく、また、学会への参加がリモート(Zoom)による参加であったことから、そのためにかかる経費の支出もなかった。さらに、研究協力者との協議もリモート(Zoom)によって実施し、また授業の参観の回数を減らし、授業者自身で撮影・記録をお願いすることもあったことから、それらにかかわる経費(交通費や会議開催にかかわる費用など)も抑えることができたことなどによって研究費の繰り越しが生まれた。 そこで、次年度は、引き続き、英国への調査を計画しており、そのための経費の他、昨年度も挙げている授業準備のために必要な費用(写真や映像を保存するためのファイルや印刷費など)、授業の記録を編集・保存するための費用(人件費・謝金を含む)、そして学会発表への参加費・旅費、研究交流のための費用などに充てる予定である。
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