2020 Fiscal Year Research-status Report
老人性低体温症モデルマウスを用いた骨格筋の新規熱産生メカニズムの解明
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18K10994
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
中尾 玲子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (20582696)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 熱産生 / 概日リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究でターゲットとするSlc25a25分子は、膜間スペースにEF hand領域を持ち、細胞内のカルシウムイオン濃度に応答してATPをミトコンドリアマトリクス内に取り込むことでエネルギー代謝を急激に上昇させる機能を持つと考えられている。先行研究においてイタリアの研究チームが、Slc25a25の骨格筋における発現が寒冷曝露時に誘導されることから、Slc25a25は体温維持に作用するものと考えられたが、このチームが作成したSlc25a25の全身欠損マウスを4℃で飼育しても低体温の表現型は得られなかった。我々が作成した骨格筋特異的Slc25a25欠損(MKO)マウスも同様に、低温環境で飼育しても体温や体重に野生型マウスとの違いが見られなかったため、骨格筋Slc25a25は寒冷環境時の熱産生には寄与しないと考えられた。 一方我々は、骨格筋Slc25a25の発現が飢餓状態において誘導されることを報告しており、この遺伝子が飢餓状態に適応するために何らかの役割を担うと考えた。令和2年度に、計画通り、野生型マウス、MKOマウスを低栄養状態を誘導するケトジェニックダイエットの摂取や24時間絶食条件に供したが、これらのマウスの表現型に差は見られなかった。骨格筋Slc25a25は活動時間帯にその発現が著しく上昇するため、活動時間帯にのみ慢性的に絶食させる時間制限絶食モデルに供したところ、野生型マウスよりもMKOマウスにおいて体温の低下、自発活動量の低下が顕著であった。マウスやラットのような小動物は一般的に飢餓状態になるとエネルギー消費を抑えるため体温・代謝を低下させるが、骨格筋Slc25a25は時刻を限定して体温を上昇させ、餌の探索に必要な体温・行動を維持する役割があると考えられる。令和3年度はSlc25a25が活動時間帯の絶食中における役割をさらに詳細に解析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までMKOマウスの樹立に想定以上の時間を要したが、今年度は計画したケトジェニックダイエット摂食試験、24時間絶食試験、活動時間帯のみの絶食10日間の試験を一通り実施し、MKOマウスの体温・自発活動量を解析することができた。いずれの試験においても野生型マウス、MKOマウスの体温は低下したが、活動時間帯のみの絶食を慢性的に続けた試験でのみ、野生型マウスに比べてMKOマウスの低体温が顕著であった。骨格筋Slc25a25は慢性的に活動時間帯のエネルギーが不足したときの体温維持に寄与すると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、MKOマウスで観察された、活動時間帯の慢性的(10日間)な絶食時における低体温悪化のメカニズム解明を目指す。当該マウスの血中生化学パラメータ(遊離脂肪酸、グルコース、ケトン体量)を測定するとともに、エネルギー代謝関連臓器(骨格筋、褐色脂肪組織、肝臓)における代謝関連遺伝子の発現量を測定する。骨格筋が絶食時に効率的に、時間を限定してエネルギー代謝を上昇させる仕組みを明らかにすることで、ヒトの低体温や肥満の改善に向けた知見を得ることを目的とする。
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Causes of Carryover |
大量に発注予定であったケトジェニックダイエットを用いた試験が、予定よりも短期間で終了したため。次年度の解析対象モデルとなる活動時間帯絶食モデルは特殊飼料購入が不要であるため、予算は生化学パラメータ測定キットやELISAキットの購入に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)