2018 Fiscal Year Research-status Report
食物摂取の多様性の向上を通じた在宅被介護高齢者の栄養状態改善の試み
Project/Area Number |
18K11103
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
羽生 大記 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (40301428)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 高齢者 / 在宅被介護者 / 食品多様性 / 栄養評価 / 低栄養 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者の健康寿命を延伸させ、老健施設入所、病院への入院を先送りにし、在宅期間を延長させることは、超高齢社会を迎えた我が国の喫緊の課題である。そのためには在宅高齢者の栄養状態を良好に保つことが基盤となる。しかし、集団で給食による栄養管理が可能な施設入所者に比し、個別に独自の食事を摂取している在宅被介護高齢者の食生活の実態は“ブラックボックス”であり、自宅におけるどのような食生活が低栄養状態に関連しているかは、未解明である。個別の自宅における食事内容の把握には、高度に訓練された管理栄養士による解析が必要であり、多数例への適応は困難である。そこで我々が着目したのが、食生活の解析ツールとしての食品多様性調査票(Kimura M, et al. BMC Geriatr. 2013)である。本方法は、10種類の食品群(肉類、魚類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、果物類、海藻類、いも類、油脂類)の1週間における摂取頻度を調査するという、極めて簡便な食物頻度調査であるが、食事中の栄養素のバランスを反映し、対象者の栄養状態とも良好に関連することが知られている。我々のパイロット研究から、在宅高齢者における栄養状態と食品多様性とは関連し、栄養状態の悪化に伴い、摂取食品群の多様性が低下していた。本研究において、栄養評価上“低栄養のリスクあり”と判定された中等度に栄養状態が低下した高齢者を対象に、摂取食品群の多様性を向上させることを通じて、栄養状態の改善が得られるか、を検証する。初年度である2018年において、A市社会福祉事業団訪問看護ステーションの担当する在宅非介護高齢者を対象に、食品多様性調査と栄養状態の評価を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A市在住の訪問看護サービスを利用していた65歳以上の在宅療養者を対象として縦断調査を行った。ベースライン調査時に基本属性として年齢、性別、同居者の有無、義歯の有無、1日の食費、調理者、調理者の性別、併存疾患(チャールソン併存疾患指数)、嚥下障害の有無と栄養状態(MNA-SF)、食物摂取状況(DVS)を調査した。予後調査時に1年間に発生したイベント(死亡、入院、入所、軽快による訪問看護の卒業)、1年後の在宅療養の継続の有無について調査し、負のアウトカムを死亡と在宅中断、正のアウトカムを軽快卒業とした。317名を解析対象とした。年齢の中央値は84歳、低栄養者は59名(19%)であった。死亡のアウトカムに対する生存時間分析の結果を表4に示す。死亡に対して独立した寄与因子となったものは疾患(HR:3.46 [95%CI:1.43-8.36])であった。DVS(HR:2.21 [95%CI:0.90-5.41])は有意ではないものの、関連のある傾向が見られた。在宅中断のアウトカムに対する生存時間分析の結果を表5に示す。在宅中断に対して独立した寄与因子となったものは年齢(HR:1.78 [95%CI:1.01-3.15])とBMI(HR: [95%CI: 1.37-4.55])であった。軽快卒業のアウトカムに対する生存時間分析の結果を表6に示す。軽快卒業に対して独立した寄与因子となったものは年齢(HR:5.11 [95%CI:1.54-16.97])であった。DVS(HR:4.18 [95%CI:0.99-17.63])は有意ではないものの関連のある傾向が見られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
負のアウトカムに対してDVSは独立した寄与因子ではなかったが、高齢者に対する先行報告では負のアウトカムに対して食多様性が関連すると報告されている。今回の検討が負のアウトカムと有意な関連を示さなかった要因として、先行研究は100項目以上に対する詳細な食多様性評価を行っていたのに対し本研究は10項目と詳細な評価を行わないため、食事内容の影響を検出しにくかったためと考えられる。正のアウトカムに対しても、今回の検討ではDVSは独立した寄与因子とならなかったが、負のアウトカムに対してと同様に、食事評価方法の詳細具合を考慮すると比較的十分な関連を示しているのではないかと考えられる。栄養状態が施設や病院から在宅療養への復帰という異なる正のアウトカムと関連するという先行報告があるが、給食の提供があり管理栄養士が常駐して治療としての栄養ケアが行われる施設や病院において、良好な栄養状態が正のアウトカムに関連することから、現在は栄養ケアが十分でない在宅療養の分野でも、食多様性の観点からの栄養介入アプローチを行うことで栄養状態の改善や良好な予後へとつながる可能性があるのではないかと考えられる。2年目においては、対象者の栄養状態を維持、改善させる目的での介入研究が望まれる。本研究で用いている食事摂取における食品多様性と栄養状態に一定の関連性が見い出せているので、訪問看護スタッフを介して、対象者に対して摂取食品類の多様性を増加させる教育、介入を実施し、そのコンプライアンス、栄養状態に与える効果に関して検討する予定である。
|