2018 Fiscal Year Research-status Report
運動および脱荷重が骨から分泌される多臓器連関制御物質に及ぼす影響
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18K11114
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
梅村 義久 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00193946)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 骨代謝 / オステオカルシン / FGF23 / 尾部懸垂 / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究においては、ラットを用いる動物実験において、骨に荷重を及ぼす運動トレーニングをさせた場合および骨への荷重を減少させた場合、骨代謝がどのように変化するかを評価するとともに、骨から分泌される多臓器連関制御物質の血液中の濃度変化を明らかとすることを目的とした。多臓器連関制御物質としては、骨細胞から分泌され糖・脂質代謝に影響を与えるOC(osteocalcin)、およびリン・カルシウム代謝に影響を与えるFGF23(fibroblast growth factor 23)について測定した。 10週齢のウィスター系雄性ラット25匹をコントロール群(9匹)、ホイールランニング群(8匹)、尾部懸垂群(8匹)の3群に分けて4週間飼育した後、脛骨の骨密度、骨強度などの骨代謝を測定するとともに、血清中のOCおよびFGF23の濃度について測定した。この結果、脛骨の骨強度には3群間に有意差が認められなかったが、脛骨の骨密度は尾部懸垂群が他の2群に比べて有意に低値を示した。本実験において尾部懸垂による荷重の減少は、骨形成を抑制させるまたは骨吸収を亢進させることが明らかとなった。 OCについては骨形成の指標と考えられるGla-OC、多臓器連関制御物質として機能すると考えられるGlu-OCなどに分けて血清濃度を測定した。Gla-OC については尾部懸垂群およびホイールランニング群においてコントロール群よりも低値を示し、骨形成が抑制されていることが明らかとなった。しかし、Glu-OCについては3群間に有意差は認められず、4週間の下肢の荷重の増減において、骨代謝がOCを介して糖・脂肪代謝に影響を与えていることは証明されなかった。また、FGF23についても3群間に有意差は認められず、この条件において骨代謝がFGF23を介してリン・カルシウム代謝に影響を与えていることは証明されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の統合的な研究目的は骨へのメカニカルストレスの荷重の負荷または軽減によって骨細胞に刺激が加わった場合、骨細胞から分泌される多臓器連関制御に関わるOC(osteocalcin)、およびFGF23(fibroblast growth factor 23)分泌量が変化し、多臓器に影響を与える可能性について検討することである。 まず、平成30年度の研究では、4週間の介入期間において、自由走運動による荷重の増加、および尾部懸垂による荷重の軽減による骨代謝の変化と、OCおよびFGF23の血清濃度の変化について検討した。その結果、これらの多臓器連関制御物質の血清濃度には有意な変化が認められず、今回の実験方法による継続的な荷重の増減によって測定対象とした物質の血清濃度は影響を受けないことが明らかとなった。 しかしこの結果は、ネガティブデータではあるものの、このような負荷ではOCならびにFGF23の血清濃度は変化しないという知見を与えている。さらに、今後の実験計画を考えるうえで参考となるものである。すなわち今後は平成30年度とは異なるメカニカルストレスの負荷によって、多臓器連関制御物質の血清濃度の変化を検討する必要がある。これらを総合的に判断して、全体の研究計画としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究において、一定期間継続的に荷重を増減させても、今回測定対象とした骨から分泌されるOC(osteocalcin)、およびFGF23(fibroblast growth factor 23)などの多臓器連関制御物質の血清濃度は影響を受けない可能性が指摘された。一方、急性的な一回の持久走運動の後において、今回対象とした多臓器連関制御物質の一つであるOC濃度が上昇することが先行研究によって報告されている。しかし、先行研究においてはOC濃度が増加した原因が、持久運動による代謝の影響なのか、骨へのメカニカルストレスの影響なのかが明らかではない。そこで平成31年度以降は、急性的なメカニカルストレスを与えた後の多臓器連関制御物質の血清濃度の変動を検討する。 具体的には急性的に骨へメカニカルストレスを与える課題として、ラットにジャンプ運動を行わせる。ジャンプ運動は1日5~20回の少ない反復回数でも下肢の骨塩量の増加が明確であり、そのような運動は1分程度で完結するため持久的な要素は殆ど含まれておらず、骨に有効なメカニカルストレスを与える方法として考えられる。このジャンプ運動前から2時間後までの血清のOC濃度などの濃度を測定し、一過性のメカニカルストレスが多臓器連関制御物質に及ぼす影響を検討する。さらに、トレッドミル走や遊泳を行わせて同様な実験を行い、異なる一過性の運動が多臓器連関制御物質の血清濃度に与える影響を検討する。 さらに、OCの血清濃度が変化した場合には、糖・脂質代謝がどのように変化するかを明らかとするため、血清の糖・脂質代謝関連物質濃度を測定する。
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Causes of Carryover |
平成30年度の実験においては、一定期間継続的に荷重を増減させても、今回測定対象とした骨から分泌される多臓器連関制御物質の血清濃度には有意差が無かった。多臓器連関制御物質であるOC(osteocalcin)が変化していた場合には、糖・脂質代謝がどのように変化するかを明らかとするため、血清インスリン濃度、インスリン感受性、血清脂質などの糖・脂質代謝関連指標を測定する予定であったが、有意差が無かったため今回は測定を見送った。また、FGF23(fibroblast growth factor 23)が変化していた場合には、リン・カルシウム代謝がどのように変化するかを明らかとするため、血清リン濃度、カルシウム濃度、活性型ビタミンDなどのリン・カルシウム関連指標を測定する予定であったが、有意差が無かったため今回は測定を見送った。このため、これらを測定する費用が次年度使用額となった。 平成31年度においては、一過性の運動前後の多臓器連関制御物質濃度の血清濃度の動態を観察する。多臓器連関制御物質濃度の血清濃度に変化がみられた場合、糖・脂質代謝関連指標を測定する費用として繰越金を使用する予定である。
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