2021 Fiscal Year Research-status Report
非線形最適化問題の求解速度の改善:最適解近傍外での数値的性質悪化の回避
Project/Area Number |
18K11185
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
檀 寛成 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (30434822)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非線形最適化問題 / 最適化ソフトウェア / 自動微分 / モデリング言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,非線形最適化問題において,最適解の近傍外での数値的性質が悪く求解に時間を要する問題に対して,求解速度を向上させるための手法を開発することを目標にスタートした.しかし,本研究の過程で開発した自動微分ソフトウェアの性能が予想以上によかったこと,またそれを用いた非線形最適化ソフトウェアの開発が進んだことから,2021 年度はこれらのソフトウェアをまとめた非線形最適化ライブラリの整備を行った. 本ライブラリの主な機能は,モデリング言語による非線形最適化問題の入力,自動微分による 1, 2 階偏導関数値の計算,内点法を用いた非線形最適化問題の求解(小規模問題用・大規模問題用)などである.本ライブラリは C/C++ で実装されており,各種 OS (Windows, Mac, Linux) 上での動作実績がある.また本ライブラリは,通常の倍精度計算の他,外部ライブラリを利用した任意精度計算も可能になっている.なお,自動微分ライブラリに関しては,非線形最適化とは切り離して,単独で利用することも可能である. 本ライブラリを用いれば,非線形最適化問題の求解はもちろん,ユーザが自ら実装した求解アルゴリズムを試すことも可能である.非線形最適化問題の求解ソフトウェアを実装する際の大きな困難として,問題を構成する関数の偏導関数値を計算することが挙げられる.本ライブラリの自動微分機能を利用すれば,ユーザは求解アルゴリズムの実装のみに集中することができるようになる. なお,本ライブラリの整備は,研究課題開始後に共同研究者になって下さった大阪府立大学(現・大阪公立大学)の楠木氏と共同で進めている.今後も楠木氏との作業を継続するとともに,共同研究者を増やすことができればよいと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題では,非線形最適化問題の求解途中に収束が遅くなる現象を回避する手法の開発を目指していた.しかし,研究過程において自動微分ソフトウェアの開発が予想以上に進展したため,このソフトウェアの開発・改良を継続してきた.また,この自動微分ソフトウェアを用いた非線形最適化ライブラリの開発にも注力してきた.その結果,小規模(数百変数程度)な非線形最適化問題を安定して求解できるソフトウェアを開発することができた.また現在は,大規模(数千~数万変数)な非線形最適化問題にも適用できるようなソフトウェアを開発中である. 一方,当初の研究課題であった,非線形最適化問題の求解途中に収束が遅くなる現象(Maratos 効果)を回避する手法の開発についてはあまり進んでいないのが現状である.また,2020 年度末の時点では,2021 年度中に自動微分ソフトウェアや非線形最適化ソフトウェアを公開することを目論んでいたが,こちらについても,まだ公開には至っていない.2021 年度は,2020 年度に続き,本務における新型コロナウイルス感染症への対応業務が多く発生したこともあり,当初の研究課題について十分な時間を充てることができなかったのが大きな理由である. なお,上記のような事情があったため,2021 年度末に事業期間の 1 年間延長を申請し,承認されている.
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように,研究全体の進捗は芳しくない部分があるのだが,幸い,当初の研究期間を超えて 2022 年度までの研究継続が認められた.そこで 2022 年度は,【テーマ 1】求解途中に収束が遅くなる現象(Maratos 効果)を回避する手法の開発,【テーマ 2】自動微分ソフトウェア・内点法ソフトウェアの公開・論文執筆に取り組む予定である(これは 2021 年度に想定していたのと同様のテーマである). 【テーマ 1】については,本研究課題の申請時点である程度準備が進んでいる状況である(本研究課題の申請書にも記載している).具体的には,求解途中に収束が遅くなる現象を,現在の反復点に微小な摂動を加えることによって回避できるのではないかと考えており,既に予備的な理論的解析を行っている.またいくつかの問題について数値実験も行っており,良好な結果を得ている.そこで 2022 年度は,理論的な解析を進めつつ,これまでに作成したソフトウェアを用い,包括的な数値実験を行うことで,一連の成果をまとめる予定である. 【テーマ 2】は,これまでに作成した自動微分ソフトウェア・内点法ソフトウェアに関わるものである.本テーマについては,2020 年度の学会発表にて共同研究者を募ったところ,大阪府立大学(現・大阪公立大学)の楠木氏から申し出があり,2021 年度は楠木氏共同で開発を行ってきた.自動微分ソフトウェアについては,予備実験により,非線形最適化分野でよく知られている自動微分ソフトウェア ADOL-C, CPPAD と比べて優れた性能を持っているのではないかということがわかっている.2022 年度は,この比較・評価を行うことで,論文にまとめたいと考えている.また,github 等を用いた非線形最適化ソフトウェアの公開を進めていく予定である.
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Causes of Carryover |
2021 年度も,2020 年度に続き,本務における新型コロナウイルス感染症への対応業務が多く発生し,本研究に十分な時間を充てることができず,残額が発生した.また,コロナ禍のため,国内・外国出張がなくなったことも残額発生の一因である. 残額については 2022 年度に執行させて頂く予定である.具体的には,数値実験用の高速なコンピュータの購入を考えている.また 2022 年度は国内出張が可能になりそうな見通しがあることから,現地での学会発表に参加することも想定している.
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