2019 Fiscal Year Research-status Report
ワイヤレスネットワーク上の組み込みコンピュータを 分散オブジェクト化する研究開発
Project/Area Number |
18K11286
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
Principal Investigator |
金谷 範一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 総合科学研究センター, 特任研究員 (20150013)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 繁 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 総合科学研究センター, 主任研究員 (10005796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 計測制御システム / 無線LAN / 組み込みコンピュータ / 加速器制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界最大の素粒子実験用大型ハドロン加速器(周長27km,加速エネルギ7兆電子ボルト)を擁するCERN(欧州原子核研究機構,スイス)では数千台以上のコンピュータによる実験計測制御系を構築するためオブジェクトモデルを元に設計が行われている.その一部ではJava RMI(Remote Method Invocation,遠隔手続呼出し)を採用している.従来のRMIでは組込コンピュータ(以下組込コン)を遠隔オブジェクトとして扱うことは困難であった.組込コンのリソースは一般的なコンピュータのそれよりも二桁前後あるいはそれ以下であるからである.しかし組込コンはオーバヘッドが少ないため,高速計測制御に有利である.本研究では非同期分散オブジェクトモデルADOP(Asynchronous Distributed Object Protocol)を基礎として,新たにextended ADOP(eADOP)を開発する.これを用いて組込コンを遠隔分散オブジェクト化して,抽象化し,透過的にこれらを計測制御する手法を明らかにする.一方マルチクライアント・マルチサーバにおいてeADOPと上位ネットワークを組み合わせたシステムにおいては,トランザクションタイムとラップタイム,リソース消費等について時間的な動作性能を評価検討する事が不可欠となる.遠方に設置した組込コンをオブジェクトとみなし,ネットワークで接続したクライアントがあたかもそのオブジェクトが自己のコンピュータの論理空間内に存在するかのように,リモートメソッドで実行できることになる.より規模が大きい上位ネットワークに統合できる可能性がある.応用分野として,実際に建設が計画されている新軟X線シンクロトロン放射光源(エネルギ3GeV,周長349m)及びアンジュレータやウイグラ挿入光源について,研究開発,計測,放射光実験装置へ応用を調査する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CPUのアーキテクチャ,リソース,ワードサイズおよびWLANチップの組合せによっては,コンパイラが生成するプログラムサイズが大きくなり,eADOPの実装に制約が大となる事が分かっている.組み込みコンの限定リソースという厳しい制約を打破するため,CPUを6種類,WLANチップは4種類について夫々の組合せと整合性を検討し,eADOPアルゴリズムの開発,評価と実装を進めている.また必要な性能を有するWLANチップは極めて限られており,国内で入手できるものについて実装検証をすすめている.WLANチップはUDPのパケット長に制限を設けており,条件によってはeADOPが用いる送受信オブジェクトプロトコルに制約が発生する.CPUがWLANチップにアクセスするのに必要なプログラムコードサイズは,チップのライブラリサイズ,アーキテクチャ,インターフェース方法に依存する.いずれもCPUとの組合せによっても大きく異なるため,使用可能なメモリサイズを大きく圧迫する.またインターフェースが低速となれば,性能に大きな影響を与える.比較対象として高性能コンピュータ4台をいずれもクライアント/サーバを用いる.計測制御性能を評価するには,一般にコンピュータの内蔵発振器は低精度低安定度であり,不十分であった.そこで超高精度・温度補償型水晶発振器を用いた高精度割り込み信号発生装置を製作,開発した.これを基準に高精度で,一連の計測制御処理を行い,オーバーヘッド等の特性を直接に計測評価できるようになった.同信号発生装置を増設し,並行動作させて性能評価を試みる.応用分野として共同研究者が調査した結果,新軟X線放射光源蓄積リング(30億eV, 周長349m)アンジュレータ,ウイグラ等の挿入光源の研究実験系統について,高速計測制御機能が求められており,本研究はこのような放射光源にも展開できる可能性が分かった.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗結果を踏まえて,アルゴリズムの開発,CPUアーキテクチャおよびリソース,WLANチップの評価と実装を進展させる.WLANの通信制御処理の過程では,有線LANとは異なりWLANチップに対するチェンネル自動選択,ネゴシエーション手順と通信確立,そして暗号化処理等もリソース,プログラム領域を大きく圧迫するため,eADOPの処理性能にも影響する.この部分はアーキテクチャおよび実装言語にも重く依存するため,部分的に評価しつつ,実装する.実装言語によっては,不定期に強制起動する不要オブジェクト回収により処理能力およびリソースが動的に変動するため,アプリケーションを除外したオーバーヘッドやリソースの消費量について時間的な動作性能を評価検討する事が不可欠となる.高精度割り込み信号発生装置により,実験データを計測収集する.次の段階では,実際にマルチクライアント・マルチサーバにおいてeADOPと上位ネットワークを組み合わせたシステムを試みる.トランザクションタイムとラップタイム,リソース消費等を計測評価し,有効性を明らかにする.eADOPではADOPの特性を継承しているため,通信は非同期型で遅延が少なく,リソースも少なくてすむため,負荷が軽いと見込められる.クライアントからは組込コンが論理的なリモートオブジェクトとして分散モデル化でき,透過的に遠隔制御できることが期待される.最後にクライアント・サーバ間をワイヤレスLAN機能を付加すると,計測制御だけでなくセンサネットワークを容易にインターネット等の上位ネットワークにも統合できる見通しを探る.研究分担者は本研究を3GeVシンクロトロン放射光源とアンジュレータ,ウイグラを含めた実験計測系へ応用についてさらに調査検討する.性能評価により計測を含めた成果を総合的にまとめて外部に発表する予定である.
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Causes of Carryover |
実験装置の作成に不可欠かつ核となる購入予定の最先端の電子部品が外国製であり,国内では直接入手できず,発注および輸入,納入,検収に月日を要した.また一部の外国部品については,入手困難なものもあり,代替品の仕様の検討,互換性の評価などに日時を要した.また特殊な外国製部品については,瑕疵があり,外国会社に交換再輸入を求めたため,月日を要した.また研究の計測に必要な他の補助装置も,新たな設計,開発,製作をゼロから行ったため期間を要した.本研究で開発中のアルゴリズムおよびハードウエアの性能および妥当性を実験的に計測するには,高精度高安定度の信号発生装置を複数台用意することが不可欠であり,従来の市販の計測器を組み合わせると予算がはるかに超過するため,自前で設計,開発,試作を行った.このため経費を大きく節約できる見込みができた.これらにより予算執行がやや遅れたものの,今後は発注方法,見積取得の見直しや発注計画なども考慮し,さらに研究実験環境を改善し,適正かつ計画的に推進する.
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