2018 Fiscal Year Research-status Report
生体信号の共分散構造分析を用いた動揺病発症検出法の研究
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18K11395
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
井須 尚紀 三重大学, 工学研究科, 招へい教授 (50221073)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 将樹 三重大学, 工学研究科, 助教 (30772644)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 動揺病 / 生体計測 / 共分散構造分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自動車の自動運転実用化後に予想される車酔い増加への対処として、搭乗者が不快感を感じ始める前に動揺病(乗物酔)の発症を予測・検出し、快適性や感覚・知覚能力の低下を未然に防ぐことを目的としている。心拍、呼吸、皮膚電位、体温、唾液成分など、様々な生体信号計測を行い、それらに対して共分散構造分析を行う。これによって作成した身体内部の状態を説明変数とする構造方程式モデルの逆モデルを求め、動揺病に対応する身体内部の状態の変化を抽出し、動揺病強度を推定する。 本年度は、合計51名分の生体信号から、平均的構造モデルの作成と、個人ごとの構造モデルに関する検討を行った。平均的構造モデルの作成においては、計測可能な比較的軽度の動揺病を発症させるために6種類の仮想環境を用意して3Dで投影し、ドライビングシミュレータシステムで運転操作を行わせた。それぞれの仮想環境は、動揺病による不快感、楽しさ、緊張感という3種類の主観評価値の組み合わせが異なるものとなるように、観察を通して調整された。また、個人ごとの構造モデルの作成時には、より多くのデータ点を取得する目的で新規に2種類の仮想環境を加え、平均的構造モデル作成時と同様の方針で全ての仮想環境の再検討と調整を行った。 実験の結果から作成されたモデルは、モデルの説明力、当てはまりの良さ、パラメータ数が最小の時(独立モデル)に比べて改善された程度に関する3種類の指標で評価された。評価の結果、平均的構造モデルは、モデルの説明力と当てはまりの良さの2指標において基準をクリアしていた。残りの1指標については僅かに基準に届かず、改善の余地はあるが、概ね良い成果が得られた。一方、個人モデルではデータ数の不足が問題となったが、一部では全ての基準をクリアするモデルもあり、より良い動揺病発症予測・検出に有効である可能性が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の第一段階として計画していた平均的構造モデルについては、改善の余地は残っているものの、概ね良好なモデルが得られた。また、平均的構造モデルによる個人の不快感の予測はあまり良好とは言えなかったが、それは想定のとおりであり、個人モデルの検討の必要性を再確認した。一方、個人モデルについては、主観評価の値に実験を繰り返したことによる影響が想定よりも大きく表れてしまったため、使用できる個人内のデータ数が不足した。しかし、繰り返しの影響が想定内に収まった一部のデータについては、3種類の評価指標の基準値をクリアするモデルも得られており、特に不快感に関してより良い予測精度が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平均的構造モデルの改善も課題ではあるが、搭乗者の動揺病の発症を予測・検出するという本研究の目的に向けて、個人モデルの改善のための実験を優先する。昨年度は、個人内のデータ点数を増やすために、仮想環境の種類を増やし、日を分けて複数回実験を繰り返した。しかし、特に3回目以降の実験では、被験者から仮想環境が同一であるために飽きが生じた旨の内観報告が得られ、実際に楽しさの主観評価値が殆ど上がらずに変動が無くなってしまっていた。そこでまずは、日を分けて繰り返し実験を行った際、それぞれに異なる仮想環境中での運転操作となるよう、仮想環境のパターンを増やして再実験を行う。日を分けてのデータが採用可能になれば、個人内で共分散が安定するために必要な数のデータを得ることも可能である。 個人モデルを多数集めた後には、個人ごとの生体信号及び心理学的測定値の時間推移を比較し、クラスター分析等によってタイプ分けを行い、タイプ別の共分散構造モデルを構築する。そして、新たに計測した生体信号をモデルへ入力して不快感等の推定を行い、評価を行う。さらに、生体信号間の共分散に基づいてモデルの結合パラメータを適応的に変化させるアルゴリズムを組込んだシステムを作成し、動揺病強度に関する推定精度の評価と検討を行う。
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Causes of Carryover |
実験に欠かせない3D映像を投影するプロジェクターが古くなっており、トラブルが頻発したり、消耗部品が手に入らなかったりといった不都合があったため、買い替えを予定していた。しかし、2018度中には実験環境に合うプロジェクターが販売されておらず、プロジェクターに合わせて実験環境を更新することも現実的ではなかったため、新製品の情報を確認しつつ、妥協案を検討していた。そのような折に、2019年度に実験環境に合うスペックの新製品が発売されるという情報を入手したため、それを購入するために、2019年度に繰り越すことを決断した。 2018年度の実験においては、本来全く無関係な品で故障部品の代用を行ったり、故障個所を補修したりといった工夫によって乗り切った。しかし、映像投影中に内部のガラス部品が割れてしまい、その部品の代用品もないため、2019年度は実験を本格的に始める前にプロジェクターを購入する必要がある。
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