2018 Fiscal Year Research-status Report
非対称な参加環境によるテレコミュニケーションの円滑化方法の研究
Project/Area Number |
18K11410
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小林 稔 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (60738623)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | CSCW / 遠隔会議 / コミュニケーション / ユーザインタフェース |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主会場で共有される情報や参加者の表情や位置関係等を遠隔会場の参加者が把握するための方法の実現に向けて、参加者の状態を視認可能な形で可視化する手法など、状況や情報を共有する方法について検討し、実験を行なった。具体的には、(1)会議参加者の緊張や発話したい気持ち等の心的状態を収集し身体に着用した表示器で表示する方法、(2)室内の活動状況を足音のような音で伝達し共有するアウェネス共有方法、(3)プレゼンテーション時の発表者の心拍リズムをフィードバックすることで緊張を緩和する方法、について検討と実験を行なった。 (1)については、心的状態を表すステッカーを身体に貼付する方法から実験を始め、ネットワークに接続され色彩パターンを提示可能なLEDバッジにより提示する方法の実装・実験を行なった。この実験では表示する心的状態は使用者自身が設定する設計とした。これは、表示情報を使用者の意思で制御可能とすることで、不本意な情報が開示されることへの抵抗感を減らすためである。 (2)については、複数チャネルの録音音声を使用して動きの活発さなどの活動状況を伝達する方法の検討・実験から始め、合成音を使用者の位置情報などを元に空間的に合成し再生する方法の実装・実験を行なった。 (3)は、会議参加者の緊張緩和を実験の主目的として、心拍等の生体情報を基に会議参加者の心的状態を把握する方法と、講演や会話などに注意が占有されがちな状態においても有効な情報提示方法を視覚聴覚に加えて触覚も含めて実装し、比較検討する実験を行なった。 これらアウェアネス支援や生体情報利用の検討を通じ、遠隔地の状態を非言語的な情報でも把握する方法の実現に資する知見を獲得した。また、個別要素に関する取り組みを進めることと並行して、多様なアプローチの検討を通じ、より多くの協力者を得て多角的な検討や実験を行うための環境構築を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H30年度は、主会場で共有される情報や参加者の表情や位置関係等を遠隔会場の参加者が把握するための方法を実現することを計画し進めてきた。この目的に沿って、会議状況を取得するための入力手段や、その情報を遠隔地参加者が取得しやすい形で提示する方法について、いくつかの方向から実験的に検討を進めることができた。一方で、会議システムとして構成することへの取り組みの面で遅延した。進捗した側面、遅延した側面があるが、複数の実験を行いながら着実に検討が進んでいるので「概ね順調に進展している」とした。 進捗した側面としては、会議参加者の状態をシステムに入力する方法の検討が進んだことや、それを会議参加者に伝達する方法の検討が進んだことがある。会議参加者は会話や資料に多くの注意を払う必要があることを考慮し、触覚を含むマルチモーダルな提示方法の実験を行うことができた。これは本年度に計画した遠隔会場の参加者のためのインタフェースに限らず、次年度の遠隔会場から主会場への情報伝達にも応用可能であるので、一部先行できたと考える。 遅延した側面としては、使用する方法を絞り込み実際の会議に使用可能なシステムとして構築することができなかったこと、構築したシステムを用いて会議の場面における検討・評価を実施するには至らなかったことなどがある。また、当初計画では初期段階で取り組むと言及した全天周カメラや回転カメラを用いた画像通信装置による方法については、市販の装置の評価にとどまり、具体的な実装・実験に進まなかった。本研究におけるシステム化は、本研究の特徴である非対称性に起因する問題に対して提案する解決方法を評価・検討することが目的であるので、効果的な評価を行えるよう慎重に配慮して進めていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
H31年度では、遠隔会場の参加者の状態を主会場の参加者が把握できるようにするための方法の検討を開始すると同時に、H30年度で明らかになった課題について引き続き検討を進める。主に次のことに取り組む。 (1)会議参加者の心的状態をシステムに入力する方法について、生体センサを用いた方法と、ボタン操作など使用者による入力を用いた方法の両面から取り組む。生体センサは使用者負担が少ない反面で、正確性を高めるのが困難であることや、使用者が希望しない情報が開示されることがあるため、使用者の入力も取り入れながら、これらをバランスさせた方法の実現が必要だと考えている。この入力方法は、遠隔会場の参加者の状態を取得する方法として用いると同時に、主会場の状況を取得する方法としても用いることがあるので、両方の利用形態を考慮して検討を進める。 (2)遠隔会場の参加者の状態を主会場の参加者が把握可能とする方法について、映像を使う方法、LED等の発光デバイスを使う方法、物理的に動くデバイスを使う方法等を検討し、必要に応じて実装し、比較評価を加えて効果的な方法を探索する。主会場の会議参加者は、参加者間の会話や提示された資料に多くの注意を払っているが、このような状況に対応する方法としてマルチモーダルな表現方法も取り入れていく。 (1)(2)を中心に、検討・実装・評価を進めていく。また、これまでの検討を通じて多数の検討項目が具体化する可能性が高まったため、これらと並行して、より多くの研究者による取組みを促すような新たな枠組みの構築も念頭に置いて進めていく。
|
Causes of Carryover |
当初計画では、研究の開始にあたり物品の購入が必要と考えたが、既存の大学設備を使用して研究を進めることができたことと、実験に必要な装置を、安価な部品を用いて実装できたことから、物品費を大幅に抑えることができた。国際会議発表のために旅費を使用したが、学内助成を受けて予算を抑えることができたため、旅費についても大幅に支出を抑えることができた。これらにより、次年度使用額が生じた。 支出を抑制することで生じた資金は、今後、さらに多様な形態でのセンシング方法・情報提示方法の実験に使用するのと同時に、国内外での情報収集や学会等での成果発表に積極的に取り組むための原資として活用する。
|