2020 Fiscal Year Research-status Report
人の流動の大規模データを用いた時空間ネットワーク解析基盤の構築
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18K11462
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤原 直哉 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (00637449)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 複雑ネットワーク / 数理モデル / 地理情報科学 / 人流 / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度終盤からの新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年度も本研究は当初計画から大きく変更することとなった。実施した研究は以下のとおりである。 まず、2020年3月末の、感染第1波における緊急事態宣言発令における人流の変化をGPSデータを用いて分析した。日本では海外のようにロックダウンなどの強制的な移動制限はなされなかったにも関わらず、人流が大きく減少していることを確認した。また、この時期においては、人流を特徴づける特徴量と、新型コロナウイルス感染症の実効再生産数の時間変化の間に相関関係があることを示した。これにより本課題の前提条件が現実にも成立している状況があることを確認した。 次に、感染拡大時において、政策による介入があるときの拡大抑制効果を、SIRモデルに基づいて解析的に示す方法を提案した。介入が1回のみである場合、介入を開始・終了するタイミングによって感染最終規模とピーク時の感染者数が大きく変化することを示した。これらの結果は学会で発表を行うとともに、論文を執筆し、プレプリントとして公開した。これらの結果は、非医薬的な介入しか対策手段がない状況において、また事後に対策の有効性を評価する際に有効である可能性がある。 また、複数の感染症が互いに相互作用しながら拡大する状況を、数理モデルの数値シミュレーションによって検討した。その結果、感染症間の相互作用が協力的な場合には、これらの感染症の感染拡大のタイミングが近づくが、相互作用が競合的な場合には、感染拡大のタイミングが相互作用がない場合と比べて時間をあけるということを確認した。これまでに相互作用する感染症の感染規模などに関する研究は存在したが、感染のタイミングに着目した研究はなく、今後、現実の感染症における比較が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は人流と感染症拡大の関連を明らかにすることが主眼であり、その内容は新型コロナウイルス感染症によって注目されたとともに、多くの事実が明らかとなった。また、現実の事態の進行に伴い、研究課題に沿った分析よりも、現実に即した分析を行うことが緊急性が高いと考え、研究計画を変更した。このような状況の中で、本研究課題が当初目指していた、人流ネットワークにおけるスケーリング則と感染拡大に関する話題については、当初の予定と比較すると研究が遅延していると言える。しかし、実データを感染が拡大している状況においてほぼリアルタイムで解析することによって、人流特徴量と実効再生産数との間の相関関係を明らかにしたほか、数理モデルによる解析的な政策介入の効果の議論など、本研究課題の研究体制を準備していたことによって、当初予測していなかった多くのことを明らかにすることができた。このように当初の計画とは大きく異なるものの、人間社会における感染症拡大動態の理解を進めたと考えている。 新型コロナウイルス感染症の拡大の現状を鑑み、本課題のもうひとつの重要な課題として予定していた経済分析は行わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の拡大は依然として継続しており、現地で開催される学会・研究会への参加や遠方の研究者との対面での打ち合わせが困難である。オンラインでの学会等への参加、打ち合わせによって代替しながら研究を進める。日本国内においても感染動態や緊急事態宣言下における人流の変化の傾向などのデータが蓄積されつつある。2021年度は、これらの実データ解析をさらに進め、スケーリングなど、新興感染症拡大の地理空間的特徴を明らかにしていきたいと考えている。また、その解析は、新型コロナウイルス感染症のみならず、既存の感染症の解析においても新たな光を当てるものと期待される。また、感染抑制の効果の数理モデルについても、空間的な効果を考慮したり、世代間相互作用を考慮するなど、多くの発展の可能性がある。モデルを拡張するとともに、緊急事態宣言下での通勤行動の変化など、感染拡大に応じて分析が可能な状況を優先的に考察したい。 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う通勤流動の変化などの解析を行う。都市部の人流が大きく変動する中で、人流データから人流特徴量を作り、その変化を回帰分析することで、人流の変化を特徴づける要因を調べていく予定である。 期間を延長して研究を継続することで社会貢献を目指していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、出張を行うことができなかったため旅費を執行しなかった。 2021年度は、感染拡大状況に応じて、出張旅費、研究の取りまとめ、接触の実態の社会調査などに予算を使用する予定である。
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Research Products
(7 results)