2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K11486
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
保坂 亮介 福岡大学, 理学部, 助教 (80569210)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 興奮性 / 抑制性 / バランス |
Outline of Annual Research Achievements |
神経回路の興奮性と抑制性のニューロンは、その数と強度が均衡し(興奮抑制均衡)、多くの神経機能を担保している。神経回路が処理する入力は、多くの場合において時間依存であり非定常である。また、興奮性シナプスは STDP 学習により強度を増減する。このような動的な系においては、興奮神経均衡をあらかじめ組み込むことはできず、動的かつ自己組織的に獲得されねばならない。Gestner らは、抑制性シナプスが STDP 学習を持つことにより、興奮抑制均衡が動的かつ自己組織的に獲得されることが明らかとした (Vogels, Science,2011)。抑制性シナプスの可塑性は長らく否定されてきたが、近年その存在が確認されている (Holmgren, Journal of Neuroscience, 2001; Woodin, Neuron, 2003; Haas, Journal of Physiology, 2006)。そこで、興奮性だけでなく、抑制性にもSTDP 学習を持つ神経回路では、興奮抑制均衡が自律的に獲得され、情報処理の機能向上が見込めるのではないだろうか。またそのとき、最適なシナプス学習関数はどのようなものであろうか。さらに、均衡にとっての最適な学習関数と、情報処理にとっての最適な学習関数は同一であろうか。そこで本研究は、興奮・抑制シナプスにSTDP学習則を持つ相互結合型神経回路において、均衡とその情報処理的観点から、最適なシナプス学習関数を導出し、この問いに答える。 研究は次の手順で行われる: (1) 興奮・抑制ニューロンからなる神経回路を計算機上に実装する。 (2) 様々な関数形のSTDP学習関数のもとでの興奮抑制均衡構造を調べる。 (3) 学習関数による情報変換機能の修飾を検証し、情報処理機能における最適な学習関数を導く。 現在、(3)の研究課題を実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究課題のターゲットの1つは、抑制性ニューロン-興奮性ニューロンのシナプスに STDP 学習を適用ことであった。また、抑制性ニューロン-抑制性ニューロン結合にはギャップジャンクションが存在するため、シナプス結合が存在しない場合もあり得るが、本研究では抑制-抑制結合もシナプス結合とし、STDP 学習の対象とした。したがって STDP 学習が適用されるシナプス結合は次の4 パターンとなる:(1) 興奮-興奮、(2) 興奮-抑制、(3) 抑制-興奮、(4) 抑制-抑制。この 4 つのパターンの組み合わせを網羅するため、24 = 16 通りのシミュレーションを行った。複数の中央演算装置を有する高性能数値計算機(8コア)を用いて、これらのシミュレーションをパラレルに実行し、計算時間の短縮を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、「ノイズの混入した入力を神経ネットワークに学習させ、変換能の向上・低下の機能解析を行う」を継続して行う。本研究課題に先行する申請者らの研究によって、興奮性ニューロン-興奮性ニューロン結合にSTDP学習則を持つ神経ネットワークは、ノイズの含まれない入力パターンを学習する場合に比べて、若干のノイズが含まれた入力パターンを学習した場合のほうが学習性能が向上することが示されている。この背後に存在するメカニズムを明らかにするために、シナプス荷重の時間変化を1シナプス単位で追跡する解析方法を開発する。また、機械学習の分野ではモデルのパラメータをデータに調整し過ぎることで汎化能力が低下する「入力に対するモデルの過学習」が知られている。上記の現象もこれに準じたメカニズムにより生じていることが考えられるため、その観点からも調査する。
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Causes of Carryover |
高性能計算機として東北大学スーパーコンピュータを使用したため、高性能計算機が購入されなかった。そのため翌年度使用とした。令和2年度の使用計画に加える形で、旅費・人件費・謝金・その他等で使用する。
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