2019 Fiscal Year Research-status Report
感性において個体差を生じる過程に関与する選択的な脳内抑制系の探索
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18K11507
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
松川 睦 日本大学, 医学部, 助手 (90318436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 感性脳科学 / 感性形成機構 / 個体差形成 / ストレス緩和 / 梨状葉皮質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では感性における個体差の形成過程において、動物が先天的に持っている価値判断基準が生後の経験によって改変される際に生じる、選択的かつ直接的な脳内抑制システムについて解明することを目的とし、関与する脳内神経回路網および脳領域の探索を行っている。そこで本年は、捕食動物の匂い(キツネ臭)によって誘発されるストレス反応に関わる神経回路の中でどの過程に、直接的な脳内抑制システムが存在するのかを明らかにするため、捕食者臭によってストレスを誘発した際の嗅球内での反応糸球体マップを作成し、そのマップに基づいて嗅球を微小破壊する、もしくは直接電気刺激することによる捕食者臭誘発ストレス関連神経回路網の調査を行った。 嗅球内では、多くの匂い物質に対する反応糸球体が鏡像関係に存在しているが、キツネ臭もこれらと同様に嗅球の内側部と背外側部にそれぞれ反応する糸球体が存在した。そこでこれらの糸球体をそれぞれ単独で、もしくは同時に微小破壊することでその後のストレス関連神経活動に変化が生じるかどうか検討した。その結果、嗅球内のどちらか一方のみの活性化だけでもストレス関連神経活動を生じさせることができる可能性がある一方で、活性化神経細胞数の変化が一時嗅皮質である梨状葉皮質でのみ見られており、それ以降の脳領域での変化が生じていないことも示された。そこで嗅球内の糸球体を微小電気刺激したところ、嗅球内で鏡像関係に分かれて存在する反応細胞の両者共に活性化されることがストレス反応の誘発に重要であることが示された。これまでの研究と今回の我々の結果を合わせると、梨状葉皮質において嗅球内の背外側面からの情報に内側面からの情報が加わることが捕食者臭誘発ストレス関連神経活動に重要であることが示唆された。このことはつまり梨状葉皮質内における抑制系の関与がストレス関連回路の活性/抑制に重要である可能性が高いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、捕食者臭(キツネ臭)によってストレスを誘発したマウスと、バラ臭を同時に嗅がせることによってストレスを緩和させたマウスとを用いて、脳内で発現が有意に変化する遺伝子を次世代シークエンス法により比較・検討することを企画しているが、その対象領域としては嗅覚情報処理過程(嗅球(背外側部と内側部)、一次嗅皮質(腹側吻側部と背側部)、扁桃体梨状皮質移行領域)およびこれまでに関与が示唆されている脳領域(分界条床核(内側部と外側部)、中隔核(内側部と外側部)、扁桃体(内側核群と基底外側核群)、中脳中心灰白質)など多くの脳領域がその候補として考えられている。 当初の研究計画としては、これらの対象とする脳領域を1か所ずつ順に検討することを想定していたが、対象領域をもう少し絞り込むことが可能ではないかと考え、キツネ臭に反応する嗅球内の糸球体の活性化に伴うストレス関連神経活動の発生機序をより詳細に解析することとした。その結果として一次嗅覚野である梨状葉皮質内における抑制系の関与がストレス関連回路の活性化もしくは抑制に重要である可能性が高いことが示された。しかしながら梨状葉皮質にはさらに2領域があり、その2つの領域間に抑制回路が存在することも知られている。そこで梨状葉皮質内の2領域における発現遺伝子を詳細に解析する事、およびその領域間における抑制系も含めた解析が非常に重要であることが想定されたため、今後の詳細な抑制システムの解析につながっていくものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、一次嗅皮質である梨状葉皮質内の異なる2領域(腹側吻側部と背側部)およびこの2領域間に存在することが示されている抑制性神経回路の関与について、次世代シークエンス法を用いた遺伝子発現データを収集しており、キツネ臭によってストレス反応が生じる際に発現が変化する遺伝子や、キツネ臭とバラ臭の混合臭によってストレス反応の緩和が生じる際に発現が変化する遺伝子など、多数の遺伝子が検索されてきている。今後、それらの遺伝子群の中で、特に神経系の活性化もしくは抑制にかかわるような遺伝子発現の変化を詳細に比較・解析していく予定である。 また引き続き、これまでに関与が示唆されている梨状葉皮質以外の脳領域である分界条床核(内側部および外側部)における遺伝子発現の解析を次世代シークエンス法にて行う予定である。梨状葉皮質および分界条床核は、我々のこれまでの研究で、匂いによるストレスの発現やその緩和に関与していることを示唆してきており、この両領域における発現遺伝子の変化を比較・検討することで、匂いストレス反応を緩和する際に活性化する選択的な脳内抑制システムの一端ならびにストレスの発現もしくは緩和にかかわる神経システムが明らかになるものと考えている。さらに、他の候補として考えている脳領域での遺伝子発現の解析を順次進めて、これらの異なる領域での解析を総合することで関与する脳領域および関与する神経細胞/回路網の特定が進むものと考えている。
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