2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の伝統工芸と工業製品を融合するために漆黒を基準として黒色の品質感を数値化する
Project/Area Number |
18K11513
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
小田 功 木更津工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (80321404)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉澤 陽介 木更津工業高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (30600415)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 漆 / 黒色 / 視感評価 / 透明感 / サーストンの一対比較法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は色合いの異なる黒色試験片を用いて視感評価を行い,黒色の色合いと品質感との関係を調べた.試験片は三層構造になっている.下層は光の透過を防ぐための不透明黒色ポリカーボネイト板である.上層は1 kg の透明ポリカーボネイト樹脂に0.30 g のカーボンブラック顔料を添加した半透明黒色のポリカーボネイト板である.これら二つの層の間に市販の色紙を挿入してあり,この色紙が中間層となる.上層の半透明黒色ポリカーボネイトを通して色紙の色が透けて見えることから,色紙の色を変えることで,試験片の黒色の色合いが変化して見えることになる.11人の被験者に作製した黒色試験片を観察してもらい,色合いの品質感を評価した.ここでは,黒漆を使用した漆器のようにしっとりと落ち着いた印象を品質感が高いと考え,色の「落ち着き感」を評価することにした.その際,評価結果を定量化するために,サーストンの一対比較法を用いて分析した. 使用した色紙の明度と黒色試験片の品質感の尺度値との関係から,明度が高くなるとほぼ線形的に品質感が低下していることが分かった.この相関係数を計算したところ,-0.91と強い負の相関があることも分かった.次に彩度と品質感との関係も,明度と同様に調べた.白と黒はどちらも低彩度であるが,黒は品質感が最も高く,白は品質感が最も低かった.青,赤,黄,緑はどれも彩度が高いが,品質感はばらついていた.この相関係数を計算したところ,-0.26とほとんど相関がなかった.以上の結果より,彩度に関しては品質感との間に明確な関係性を見出すことができなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
黒色物体の品質感は,物体の明度と強い負の相関があることが分かったが,そのメカニズムの解明までには至らなかったため.
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Strategy for Future Research Activity |
日本の伝統的な黒色塗料に漆がある.深みがありかつ艶やかな黒のことを「漆黒」という用語で表現していることや,漆の黒は「烏の濡れ羽色」と言われることからも分かるように,漆の黒色は高品質な黒色として知られている.そこで高品質な黒色の基準とするために,研究協力者である伝統工芸士に,黒色漆の試験片を複数個,製作してもらった.伝統工芸士に漆工芸品に関するヒアリングを行った結果,①漆には種類があること,②種類により透明度は異なるが,一般的に漆は透明度が高いこと,③黒色は酸化重合反応によること,④漆は透明な黄赤系の色味であること,⑤漆は5,6層,塗り重ねていること,⑥表面を炭で研磨し,さらに磨き粉と油で表面を磨いていることが分かった.製作した試験片を,照明および受光の幾何学的条件を変えながら目視で観察すると,わずかに構造色が発生しているようであった.研究代表者はこの原因を,透明度の高い漆を5,6層,塗り重ねて試験片を製作しているからであると考えた. 今後は,漆工芸品の黒色が高品質に見える原因を解明したいと考えている.そこで2020年度は,①上記試験片の構造色の数値化と,②光沢度,反射ヘイズ,写像性,正反射プロファイルといった外観品質特性の数値化を試みる予定である.また以上の数値化の他に,③試験片の切断面を光学顕微鏡で観察し,多層状態の各漆層の厚みを測定する予定である.
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Causes of Carryover |
2019年度は,現有の黒色試験片を使用して研究を遂行した.さらに研究協力者に無償で黒色漆の試験片を製作してもらった.以上により,既受領額累計額よりも支出額累計額の方が少なくて済んだ. 2020年度は,①照明および受光の幾何学的条件を変えることができるマルチアングル式の分光測色計の新規購入,②アピアランスアナライザーの新規購入,③現有のデジタル顕微鏡の対物レンズは低倍率のため,高倍率の対物レンズの新規購入とそれに対応したスタンドおよび光源の改良,などをする予定である.
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Research Products
(1 results)