2018 Fiscal Year Research-status Report
生体内糖タンパク質の構造情報を利用した糖鎖認識機構解析のための手法の開発と応用
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18K11534
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 講師 (20361818)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生体分子シミュレーション / 抗体 / 糖鎖認識 / 分子間相互作用 / ヒト免疫不全ウィルス |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質の糖鎖認識における詳細な相互作用情報を得るためのシミュレーション法の開発を目的として研究している. まず,高マンノース型糖鎖との親和性が異なるPGT抗体四種の結合特性データを収集した.糖鎖に結合する抗体の各複合体結晶構造(PDB:4TVP,5T3S,3TWC,3TV3)を出発構造として古典分子動力学シミュレーションを行い,複合体の構造変化を解析した.また,量子化学計算により詳細な抗体―糖鎖間の相互作用を解析した.得られた相互作用エネルギーや結合自由エネルギーは,抗体の高マンノース型糖鎖への親和性実験結果と良い相関が見られ,さらに抗体の糖鎖認識では,水素結合だけでなく,適度な疎水相互作用を再現する分散相互作用の重要性が明らかになった.この結果を第37回日本糖質学会年会で発表し,現在学術雑誌に投稿中である. 次にシアル酸含有二本鎖複合型糖鎖への親和性が異なる三種のPGT抗体の解析に着手した.この複合型糖鎖に結合するPGT抗体の結晶構造(PDB:4JY4)を参照してドッキングシミュレーションを行い,他の二つの抗体との複合体構造を得た.これを出発構造として古典分子動力学シミュレーションを行ったところ,結合自由エネルギーが親和性実験結果を定性的に再現することが明らかになり,第12回分子科学討論会にて報告した.しかし,この方法で得た複合体構造は各抗体間でばらつきが大きく,さらなる系統解析には不十分であったため,解析方法を改良した.糖タンパク質と結合するPGT抗体の結晶構造(PDB:5FYL)の20個の糖鎖の一つをシアル酸含有二本鎖複合型糖鎖に修正した後,抗体部分のみを別の抗体に置換して複合体構造を三種作成し,それぞれを出発構造にして分子動力学シミュレーションにより安定化したところ,系統解析に適した構造を作成することができた.結果を日本化学会第99春季年会で報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は,当初の研究計画の通り,順調に研究が進み学会発表を行うと共に,学術論文を投稿することができた.このため,概ね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は前年度に改良した解析手法を使い,抗体の糖鎖認識機構を探求する. まず,シアル酸含有二本鎖複合型糖鎖を介して糖タンパク質に結合するPGT抗体の複合体三種におけるダイナミクスを比較解析する.原子数が16000を超える複合体の分子動力学シミュレーションを行うため,前年度に購入したGPU搭載の並列計算機を駆使して行う.シミュレーションで得られるスナップショット構造について,量子化学計算を行い,糖鎖―抗体間の相互作用の詳細な解析を行う.解析には,抗体―糖鎖複合体,抗体,糖鎖リガンドを個別に,溶媒効果を考慮した量子化学計算を行なって相互作用を見積もるSubsystem Analysisを適用する予定である. 次に,上記解析で用いた構造の糖タンパク質部分に結合する糖鎖の型を,高マンノース型のみ,複合型のみ,複数種類の糖鎖が混在する場合に分けて,各抗体の糖鎖認識がどのように変化するのかを,分子動力学シミュレーションによって系統的に確認する.ヒト免疫不全ウィルスの外被糖タンパク質の表面を覆う糖鎖の分布には偏りがあることが明らかになっており,生体内で糖鎖が個別に特異的に認識されているのか,あるいは複数糖鎖の模様として認識されているのか,そのメカニズムは実験的にも明らかになっていないことから,抗体による複数糖鎖認識に関する解析結果は,新規糖鎖機能性分子の設計指針となる基礎的な情報となると考えている.得られた結果は,国内外の学会(国際複合糖質シンポジウム(Glyco25), 日本糖質学会年会,日本化学会年会)で発表し,学術雑誌に論文を投稿する.
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Causes of Carryover |
予算計上して購入したGPUを搭載する並列計算機が,当初予定していた金額よりも安価に手に入れることができたため,その分の物品費が剰余金となった. 次年度は,この並列計算機を活用して得られる研究成果を積極的に発表するために,国際学会等に参加する予定である.そのための旅費及び,学術雑誌投稿準備のための英文校正代として使用する予定である.
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