2018 Fiscal Year Research-status Report
照射ウランを用いた原子炉事故で生成する放射性エアロゾルの生成過程の解明
Project/Area Number |
18K11643
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高宮 幸一 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (70324712)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 放射性エアロゾル / 核分裂生成物 / ウラン / 溶液状エアロゾル |
Outline of Annual Research Achievements |
自発核分裂核種であるCf-252を核分裂生成物(FP)の供給源として用いた溶液状放射性エアロゾルの生成装置をもとに、研究用原子炉(KUR)で中性子照射を行った二酸化ウラン試料をFPの供給源として用いて放射性エアロゾルを生成する装置の開発を行った。Cf-252を用いた装置では、エアロゾル粒子は核分裂反応における反跳による高い運動エネルギーを持ったFPおよび気体分子との衝突により熱運動エネルギー領域の低い運動エネルギーを持ったFPの両方と反応するため、FPごとの反応の違いを明確にすることが困難であったが、本装置では熱運動状態のFPとエアロゾル粒子との反応挙動のみを観測することができるため、FPとエアロゾル粒子との反応による放射性エアロゾルの生成過程をより明確に考察することができる。 また、過去の実験結果をもとに、KURの圧気輸送管照射設備を用いて二酸化ウラン試料への中性子照射を行った。照射済みの二酸化ウラン試料の一部を移した石英管を管状電気炉内で加熱することでFPを放出させ、アトマイザーを用いて塩化ナトリウム水溶液から生成した溶液状エアロゾルと放射性エアロゾル生成用のチェンバー内で混合した。チェンバーから排出されるエアロゾル粒子をフィルター上に捕集してガンマ線スペクトロメトリを行うことで、放射性エアロゾルを生成したFPの種類と割合とを見積もった。その結果、予備実験では生成が観測されていた放射性セシウムを含んだ放射性エアロゾルが、本装置を用いた実験では生成されないことがわかった。これはFPのキャリアガスの種類が予備実験と本実験では異なることによる、照射ウランからFPが放出される際の化学形の違いが原因であると推測される。このことから、事故を起こした原子炉内での放射性エアロゾルの生成条件には、キャリアガスの種類などの照射ウランからのFPの放出条件も重要であることが明確となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備実験では石英管内で照射ウランを加熱しFPを放出させるとともに溶液状エアロゾルを通過させることで放射性エアロゾルを生成させた。しかし、加熱領域を溶液状エアロゾルが通過することでエアロゾル粒子の大きさや溶液濃度等の性状が変化するため、エアロゾル粒子の性状と放射性エアロゾルの生成率との間の明確な相関を得ることができなかった。この問題を解決するために、FPの放出部と溶液状エアロゾルとの反応部(チェンバー)を分離することでエアロゾル粒子の性状と放射性エアロゾルの生成率の相関が明確になるように改良し、さらにチェンバーの容積を可変とすることで両者の反応時間と生成率との相関も得られる装置を開発した。 本装置を用いて中性子照射したウランを用いた放射性エアロゾルの生成実験を行い、生成した放射性エアロゾル粒子を捕集し、ガンマ線スペクトロメトリにより放射性エアロゾルに含まれるFPの種類を同定した。その結果、当初の予想とは異なり、生成する放射性エアロゾルの種類がFPを運搬するキャリアガスの種類にも依存することがわかった。このことは、事故を起こした原子炉内で生成する放射性エアロゾルの生成過程のうち、放射性セシウムをはじめとするFPの放出過程が、周囲の環境に依存することを示唆している。つまり、溶液状放射性エアロゾルとして生成し環境中に移行するFPの種類や量を評価するにあたって、溶液エアロゾルの成分やFPが放出される際の温度以外にも、周囲の環境が酸化雰囲気か還元雰囲気かにも依存する可能性を示している。したがって、FPの放出に関する条件を増やして実験を行うことで、放射性エアロゾルの生成過程について、一層の理解を深めることができると考える。 また、今回の実験におけるウラン試料の中性子照射後の生成放射能の測定結果から、照射ウランを用いて短寿命FPを対象とした実験も実施可能であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した放射性エアロゾル生成装置を用いて、放射性エアロゾルの生成率の系統的な測定を行う。この際、これまでに行ったウラン試料の中性子照射後の生成放射能の測定結果から照射ウランを用いて短寿命FPを対象とした実験も実施可能であると判断できたため、分析可能な対象FPを拡張した実験を行う。 溶液状エアロゾルの原料物質には、塩化ナトリウム等のハロゲン化アルカリやアンモニウム塩を用い、これらの溶液の種類および濃度と放射性エアロゾルの生成率の相関について、FPの種類ごとに実験を行う。また、エアロゾル粒子とFPの反応時間をとの相関についても系統的な実験を行う。さらに、これまでの研究により明確となったFPのキャリアガスが放射性エアロゾルの生成率に与える影響についても様々な条件での実験を行う。 これらの実験結果を総合的に解析し、FPのエアロゾル粒子への付着挙動について化学的・物理的な考察を行い放射性エアロゾルの生成過程の解明を試みる。 最終的には実験結果をもとに、放射性エアロゾルの生成過程における化学的相互作用の寄与を抽出、定量化し、分子動力学をもとにしたシミュレーション計算を行うことで、放射性エアロゾルの生成モデルの構築を目指す。
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Causes of Carryover |
当初は初年度にCf-252の線源を購入し、短寿命の核分裂生成物に対してはCf-252を用いた実験を計画していた。一方で、事故を起こした原子炉内でのエアロゾルの生成条件により近い条件で実験を行うために、照射ウランを用いた実験が可能かどうかを初年度の実験を通じて判断することとしていた。その結果、照射ウランを用いた手法が 短寿命の核分裂生成物に対しても有効であることが示されたため、初年度のCf-252の購入を見送り、照射ウランを用いた実験を中心に研究を進めることとした。研究の進捗によりCf-252の購入が不要となった場合、照射ウランを用いた短寿命FPに対する実験を高効率化するための装置の開発・改良を進め、実験可能な条件の拡張を目指す。
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Research Products
(2 results)