2019 Fiscal Year Research-status Report
脂肪幹細胞(ADSC)移植による放射線誘発急性障害、特に骨髄障害回避の検証
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18K11649
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
大津山 彰 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10194218)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脂肪幹細胞 / ADSC / 放射線骨髄障害 / 幹細胞移植 / 放射線障害回避 |
Outline of Annual Research Achievements |
H30年度の実験では、Aグループ:ICRメスマウスにX線6Gyを全身照射直後に、ICRオスマウスのADSC(脂肪幹細胞)を伏在静脈あるいは腹腔内に投与し、生存率を経時的に観察した。またADSC培養上清中のエクソソームやマイクロソームも組織再生効果ありとの論文があり、ADSC培養上清移植群を設定し実験した。iv移植群は6Gy、6.5Gy、7Gy群を設定し実験を行なった。6Gy照射群は約750日で観察が終了し、移植群と非移植群の生存率に有意差がみられた。6Gy、7Gy群ではマウスのロットに問題が有り、実験が継続できなかった。ip実験群とADSC培養上清移植群は7Gy群を設定し実験を行なったが、移植群と非移植群間の生存率に有意差はなかった。1)生存率の差をみるには6.5GyのX線全身照射が至適線量であることがわかった。2)ADSCのip移植もADSC培養上清移植群でも生存率延長効果は無いことがわかった。 R1年度の実験では、Bグループ:C57BL/6メスマウスにX線6.5Gy全身照射した直後に、C57BL/6オスマウスのADSCを伏在静脈 (1X10^6個/500μl)にて投与し(移植群136匹、非移植群181匹)、移植後400日生存率を経時的に観察中であるが、すでに2群間の生存率に明確な有意差がみられている。ADSCの移植と再生目的臓器の幹細胞を同時移植することでさらに効率の良い再生効果があるとの論文が複数発表されており、ADSCと骨髄細胞を同時に移植する実験系も開始した。移植後105日が経過しているが、すでに生存率に明確な有意差がみられている。本年度は移植細胞の体内での動向を追跡するのに、PKH26でADSCをラベルし移植後組織学的に追ったところ、肺と骨髄での存在を認めた。また、レシピエント主要臓器で♂のマーカー遺伝子ssty2をPCRで解析したところ肺のみで存在を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H30年度はADSCのiv移植だけではなく、ip移植や予定外の実験であるADSC培養上清移植を行なったが、iv移植群以外では移植群と対照群間の生存率に有意差はみられなかった。ip移植やADSC培養上清移植では移植細胞数や培養上清の濃縮等実験条件の検討を行う必要があるが、本研究はADSCのiv移植で放射線被ばくマウスの骨髄障害回避をみるのが狙いなので、R1年度以降は予定通りBグループの条件で実験を進めていくこととした。 R1年度の進捗状況はAグループでn数が200匹以上となり観察は終了したが、Bグループもn数は300匹を超え、移植群と非移植群との間にすでに有意差を確認しており実験は予定通り以上に進んでいる。移植細胞のレシピエント体内での動態を観察する目的で、生体染色色素PKH26でADSC幹細胞を培養中に染色したのちiv移植を行うプレ実験を前年に行い、本年度はPKH26-ADSC移植後、レシピエントマウスの肺、肝臓、腎臓、脾臓の凍結切片を経時的に採取し解析したところ、肺でPKH26-ADSCの存在を確認した。骨髄は培養した細胞群中にPKH26-ADSCを確認した。同様に移植細胞のメスレシピエント体内での動態観察の目的で、オス由来移植細胞ADSCのY染色体上のオスマーカーを検出する実験も、前年のプレ実験からssty2遺伝子がマウスの場合有用なことをみいだしていたので、本年度はレシピエントマウスの肺、肝臓、腎臓、脾臓、骨髄のPCR解析を行い、肺でのみssty2の存在を確認した。また、目的臓器機の幹細胞とADSCを混合し移植を行うと、目的の臓器で効率よく再生が行われるとの論文があり、骨髄細胞との混合移植を試すためマウス骨髄細胞との混合数等の実験条件策定のプレ実験も行なっているが、すでに混合移植群とADSC移植群間に生存率の有意差をみており、結果が先行して得られている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
Bグループの観察期間があと200日ほどで終了するので、最終的な生存率の有意差検定を行う。ADSC移植細胞の移植後の動態を解析するために行っている、検体の収集(移植直後、移植7日目、20日目、150日目)が終了しているので、全ての検体のPKH26を用いた組織学的な解析とPCRを用いたssty2の分子生物学的な解析を行い、いつ、どの組織内で、どのような機序で骨髄機能を担保し延命効果を発揮しているのかを解析する。また、H31年度から始めた、骨髄細胞とADSCの混合移植実験ですでに延命効果を確認しているので、ADSC単独移植の実験と同様に、PKH26を用いた実験と、PCRによるssty2の経時的な混合移植による骨髄細胞の動態の解析を行い、ADSCがどのように移植骨髄細胞と協調し延命効果を増強するのかを解析していく。
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Causes of Carryover |
R1年度は国際学会出席予定のために海外渡航費用として旅費を高めに計上していたが、大学内の海外出張旅費援助公募に応募し、一部援助を得られたので旅費の支出額がおさえられた。しかし、実験マウスの生存率が予想より高く、また飼育期間が延長したこと、さらに骨髄細胞とADSCの混合移植実験を新たに組んだことで、マウスの飼育費が予定より高額になったこと、また、移植細胞の移植後の動態解析のための凍結切片ならびにHE組織切片の作製の外注数が増加したことで、「その他」の支出経費額が増加した。「旅費」の支出経費で抑えられた金額から「その他」の支出経費額で増加した金額を差し引いた結果、次年度使用額が生じた。翌年度の骨髄細胞とADSCの混合移植実験の継続に伴いマウス購入費が増加すると考えられるので、翌年度の助成金に加えて使用する予定である。
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