2020 Fiscal Year Research-status Report
PCBなどの化学物質の甲状腺ホルモン濃度低下作用発現メカニズムの全容解明
Project/Area Number |
18K11660
|
Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
加藤 善久 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90161132)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 甲状腺ホルモン撹乱 / サイロキシン / PCB / トランスポーター / マウス / 肝臓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新たに提唱したPCBの血中T4濃度低下作用メカニズムの本質となるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析し、本作用メカニズムの全容を解明する。今回、AhRの反応性が高いTCDD高感受性C57BL/6系マウスおよびAhRの反応性が低いTCDD低感受性DBA/2系マウスに、コプラナーPCBである3,3',4,4'-tetrachlorobiphenyl (CB77)、モノオルソPCBである2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118)、ノンプラナーPCBである2,2',4,4',5,5'-hexaCB (CB153)を投与し、肝臓の甲状腺ホルモントランスポーターのmRNAの発現変動を検討した。 両マウスにCB77 (50 mg/kg)、CB118 (50 mg/kg)、CB153 (100 mg/kg)を投与し、投与後それぞれ7日、5日、3日に肝臓を摘出した。血清中総T4濃度は、いずれのPCB投与の場合にも低下していた。LAT1およびOatp2のmRNAの発現量は、両マウスにいずれのPCBを投与した場合にも変化しなかった。一方、MCT8のmRNAの発現量は、C57BL/6系マウスにCB118を投与したとき、1.6倍に増加し、DBA/2系マウスにCB153を投与したとき、増加傾向(1.7倍)が見られた。また、Mrp2のmRNAの発現量は、DBA/2系マウスにCB153を投与したとき、増加傾向が見られたが、その他の場合には変化しなかった。また、同様にMrp3のmRNAの発現量は、DBA/2系マウスにCB153の投与により2.4倍に増加したが、その他の場合には変化は観察されなかった。以上、両マウスにいずれのPCB投与の場合にも、血中T4の肝臓への移行の増加にOatp2およびLAT1が関与の可能性がないことが考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CARリガンドPCB (CB153)、AhRリガンドのPCB (CB126、CB77)およびCAR とAhRの両リガンドのPCB (CB118)による血清中T4濃度の低下は、主に肝臓へのT4の蓄積量の増加に起因していることを示し、異なるタイプのPCBよる血清中T4レベルの低下作用メカニズムを新規セオリーとして提案した。さらに、PCB(KC500)によるラット肝臓へのT4の蓄積量の増加には、肝臓へのT4の取り込みに関わるトランスポーター(LAT1およびOatp2)が一部関与していることを示唆した。 そこで、血中T4濃度低下作用メカニズムの本質となるT4の肝臓への蓄積メカニズムを解析するために、T4の肝臓への取り込み、排出に関わるトランスポーターの検討を行った。CB77、CB118、CB153 を投与したC57BL/6系マウスおよびDBA/2系マウスの肝臓において、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターとして、有機アニオン輸送ポリペプチド(Oatp2)、L型アミノ酸トランスポーター(LAT1)、モノカルボン酸トランスポーター(MCT8)およびATP結合カセットトランスポーター(Mrp2、Mrp3)の遺伝子の発現変動への影響を、RT-PCR法を用いて測定を行った。 両マウスにいずれのPCB投与の場合にも、肝臓へのT4の移行量の増加において、トランスポーターの関与は示唆されなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
異なる核内レセプターに結合するPCB、それらを成分として含み「油症」の原因となったPCB混合物、ヒト血中の残留量が高い水酸化PCBおよびphenobarbitalを投与した動物を用いて、血清中甲状腺ホルモン濃度とともに、甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込み、肝細胞の側底膜から体循環への分泌、肝実質細胞の胆管側膜から胆汁中への排泄を解析する。次に、甲状腺ホルモントランスポーターを発現させた細胞を用いて、PCBによるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体解明を進める。異なるタイプのPCBおよびphenobarbitalの血清中T4濃度の低下に関わる甲状腺ホルモントランスポーターと薬物代謝酵素の協働関係を明らかにし、PCBによるT4濃度低下作用発現メカニズムの動物種差を解明する。さらに、ヒト由来試料を利用して、甲状腺ホルモンの変動を多角的に解析し、相互に関連付けて追求することにより、ヒトでのPCBの血清中甲状腺ホルモン濃度低下作用発現メカニズムを追究する。 PCB及びphenobarbitalによる血清中T4濃度の低下において提唱した新規メカニズムである肝臓へのT4の蓄積量の増加の要因を、肝臓の甲状腺ホルモンのトランスポーターに焦点を当て、血清中甲状腺ホルモン濃度の低下に関わる薬物代謝酵素などの様々な作用を考え併せ、遺伝子組み換え動物も巧みに利用し、各種実験動物の結果を統合的に解析する。
|
Causes of Carryover |
甲状腺ホルモンの体内動態および血清中サイロキシンと甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合率に関する薬物動態学的in vivo実験と分子生物学的なex vivo実験において、実験テクニックが向上したため、試薬や動物及び実験試料をロスすることなく研究が進み、次年度使用額が生じた。 研究をさらに進展させて、甲状腺ホルモンの血管側の細胞膜から肝実質細胞への取り込み実験、甲状腺ホルモンの肝細胞の側底膜および胆管側膜で働く排出トランスポーターの関与を明らかにする実験、ヒト甲状腺ホルモントランスポーター発現細胞を用いた実験ならびに甲状腺ホルモントランスポーターの役割を検証する実験、PCBによるラットの血清中甲状腺ホルモン濃度の低下に、肝臓と小腸におけるUDP-GTによる甲状腺ホルモンの代謝と、肝臓の甲状腺トランスポーターによる甲状腺ホルモンの取り込みおよび分泌とが、どのように協働関係を持つかを明らかにする実験を引き続き次年度に行い、さらに国際学会で研究成果の発表を行う計画であり、生じた次年度使用額はそれらの経費に充てることとする。また、大学からの研究費もこの研究の遂行に充当する。
|
Research Products
(5 results)