2020 Fiscal Year Research-status Report
植物培養細胞を用いた高精度な低線量放射線生物影響モニタリング手法の開発
Project/Area Number |
18K11663
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 真哉 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80370419)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉置 雅紀 国立研究開発法人国立環境研究所, 福島支部, 室長 (00311324)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低線量放射線 / 植物 / カルス / DNA相同組み換え / モニター遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原子力発電所事故に起因する放射性物質土壌汚染による低線量放射線の生物影響が懸念されているが、その直接的な評価は未だに困難である。近年植物において、放射線により生成するDNA損傷が刺激となって相同組み換えが起こり、予め分割して導入されたリポータ遺伝子が、正常型になり機能回復する現象をモニタリングする評価方法が開発されている。研究代表者らは、染色による色素沈着を検出可能なβ-グルクロニダーゼ(GUS)リポータ遺伝子導入カルス(モニタリングカルス)を用いて、空間線量率上昇に伴う相同組み換え頻度の増加を確認しているが、未だ一部で残る高線量区域(空間線量 7 μSv/hr以上)での影響評価や実際のゲノム変異頻度と相同組み換え頻度の相関については明らかにできていない。本研究は、より精緻な低線量放射線の生物影響評価のため、高線量区域での影響評価をおこなうとともに、ゲノムDNAへの変異誘発率などの評価を試みる。 令和2年度は、引き続き高線量区域でのゲノム上の変異頻度への影響評価を中心にモニタリングを実施した。研究分担者(国立環境研究所 玉置雅紀博士)により、令和元年10月~11月にかけて、福島県内の帰還困難区域内の空間線量7.5~20 μSv/hrの2地点、および対象区としてつくば1地点(0.09 μSv/hr)にモニタリングカルスを埋設し、一定期間の曝露後に回収して、カルスを凍結保存した。これらのカルスから、ゲノムDNA抽出を行い、次世代シークエンサーを用いた変異頻度解析を行った。3地点における点突然変異、および挿入・欠失について評価を行ったが、3地点で有意な変異率の増加は確認できなかった。現在、ゲノム再編成の可能性について評価を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度当初からのコロナウイルス感染症のまん延に伴う、緊急事態宣言発令により、筑波大学では研究活動が制限され、植物材料を維持している国立環境研究所でも入構制限が実施された。宣言解除後も、本務(大学での教育活動)が多忙を極め、現地での研究活動を行っている余裕がなかった。そのため、全体的に遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果により、現場の低線量放射線ではゲノム変異誘発は検出できない可能性が出てきた。そのため、令和3年度は、高線量区域での相同組み換え頻度とゲノム変異頻度の双方についての評価を行い、評価系として適している手法を決定する。また、これらの方法に加えて、モニタリングに利用可能な新たな評価パラメータの開発を行う。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、コロナウイルス感染症により様々な行動制限を受けた。特に各種学会や国際会議の中止が相次ぎ、旅費の執行がなかった。また、研究打ち合わせもオンライン会議が推奨され、研究分担者との相互の行き来もほぼなかった。 令和3年度は、各種学会も徐々に現地開催が増えてきているので、成果発表に伴う学会等参加費および旅費として計上し、使用予定である。また、今後の研究計画は、研究分担者と密に連絡を取り合い、通常実験で使用する消耗品類の購入の他、予定している次世代シークエンサーによる解析費用、また現地調査の旅費などに使用予定である。これまでの成果をまとめた論文発表は年度内に行い、その掲載費等にも使用予定である。
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