2019 Fiscal Year Research-status Report
汽水域における二枚貝の環境耐性と殻体を利用した環境ストレス履歴の解読
Project/Area Number |
18K11665
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
山口 啓子 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (80322220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸 浩二 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60252897)
香月 興太 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 講師 (20423270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 二枚貝 / 柱状試料 / 貧酸素 / 有機汚染 / 中海 / 干拓堤防 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は閉鎖性水域の諸問題、特に貧酸素化・硫化水素の発生・塩分成層の強化などが、水域の生物に与える影響を読み取る手法の開発を目的とし、人為的環境変化の顕著な中海の堆積物と貧酸素耐性の強い内湾性二枚貝の性質を利用して、貧酸素化の進行を中心とした水域の環境変遷過程を読み解くことを試みる。 2019年度は、調査地とした中海の干拓堤防建設(1975年)前の海水の流入経路を念頭に、湾口から湾奥へ3地点(本庄水域内2地点、中海本湖1地点)を選出し、各地点で約1メートルの柱状試料を4本ずつ採取し、過去100年の環境変遷を読み解くための試料を得た。採取した柱状試料は断面を取り、堆積物の色の変化を観察した後、層厚1または2cmごとに採取して試料とし、堆積物の粒度(含砂率)・含水率・強熱減量・CHNS元素分析および二枚貝遺骸の洗い出しの後、種の同定と種ごとの殻の計数を行った。また、数cmごとにCs137のピークおよびPb210による堆積速度推定を用いて年代測定を行った。 3地点共通して、二枚貝相は下層ではチゴドリガイ・イヨスダレガイ・サルボウガイなどの内湾泥底種が優占し、ある層準を境にそれらが産出しなくなり、代わって上層でアサリ・シズクガイ・チヨノハナガイ・ホトトギスガイのような日和見種や汚染指標種が優占するという経時変化が認められた。また、その入れ替わりの層準は湾奥でより下層において見られた。また、底質の強熱減量・CNS濃度などの値も、ある水準から高くなる傾向が見られ、有機汚染が奥部より進行したことが読み取れた。また、最も湾口に近い地点では、貝殻遺骸が全く産出しない層準が20cm以上の厚さで存在し、バイオターべーションが顕著であることが酸素の豊かな環境を示唆していることが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
柱状試料中から得られた二枚貝、特にサルボウガイの殻体を用いて、断面の観察を行い、殻体の成長停止線の特徴をもとに貧酸素の程度を推定する計画であった。しかし、2019年度に採取した3地点の柱状試料の中から得られたサルボウガイ殻体はほとんどが小型個体で、貧酸素の著しいはずの夏を越していない。貧酸素の解析のためには1年以上生息し、成長した大型の個体が必要であるが、そのような殻体は、各調査地点で1個体程度しか得られなかった。そのため、殻体成長線の確認までに至らなかった。2020年度には、この課題を解決するため、より口径の大きな柱状採泥器を用いて、分析用の試料を入手することを試みる。 また、室内飼育実験では、環境耐性実験の途中で、温度刺激によりサルボウガイが産卵をしてしまい、計画通りの実験ができなかった。飼育実験も2020年度に再度試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の柱状試料では、分析に用いるサルボウガイの貝殻がほとんど手に入らなかったことから、2020年度には柱状試料の口径をより大きな採泥器(コア直径6cm → 採泥器11cm)を用いて、採泥本数も増やして、大型のサルボウガイ採取を試みる。それでもサルボウガイが得られない場合は、既存の柱状試料から試料のサルボウガイ殻体を収集するか、または比較的大型個体が多く採集されているイヨスダレガイの殻体分析についても検討する。 2019年の飼育実験で予定しなかった産卵が問題となったが、本来、貧酸素化が著しい夏期に本種は産卵を行うことから、そもそも、産卵のストレスと、貧酸素のストレスとの区別が可能かどうかを検討する必要があると考えた。そこで、2020年度には、その識別方法(もしくは識別不能かどうか)についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
2019年度中に予定していた柱状試料中のサルボウガイ殻体(大型個体)の試料が入手できなくなったため、その試料入手および殻体分析に必要な経費は次年度に使用することととした。
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