2019 Fiscal Year Research-status Report
A risk assessment of autism caused by environmental chemicals using epigenetic information
Project/Area Number |
18K11679
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
新井 良和 宮崎大学, 農学部, 助教 (90614769)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | エピジェネティクス / DNAメチル化 / 環境化学物質 / 神経 / 自閉症 |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症スペクトラム障害(自閉症)は近年ますます増加する神経疾患であり、その多くが幼少期から発症し、様々な行動異常を伴うなど大きな社会問題となっている。これまでに自閉症の原因候補遺伝子が多数報告されているが、遺伝子変異のみでは疾患の発症機序を説明できないのが現状である。胎児は胎盤を介して、母親からの栄養供給を受けるが、同時に環境中の有害な化学物質にも晒される危険性があることが報告されている。先の培養細胞を用いた解析で、妊娠期の母体環境中から検出される一部の化学物質が、遺伝子の発現調節機構であるエピジェネティクスを乱し、細胞分化にも影響することを明らかにしている。本研究では、化学物質による神経細胞分化への影響についてエピジェネティクスに着目し、自閉症の発症メカニズムの解明を行う。 これまでの研究で明らかとなった、ヒトiPS細胞のエピジェネティック状況を乱す5種類の化学物質(DEP, コチニン, S-421, Hg, Se)をヒトiPS細胞から分化誘導させた神経幹細胞であるニューロスフィアに暴露し、神経幹細胞、および神経細胞マーカー遺伝子の発現解析を行った。その結果、化学物質暴露群では神経細胞マーカー遺伝子の有意な発現上昇が認められた。さらに、この影響は化学物質を除去したあとも持続的に続くことが示された。これらのことは、母体環境中から検出される一部の化学物質は神経幹細胞の遺伝子発現を乱し、その影響は長期におよぶことを示すものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究で、妊娠期の母体環境中から検出される5種類の化学物質の複合暴露が、神経幹細胞の増殖・分化に悪影響をもたらすことを示した。本年度はさらに、化学物質暴露による遺伝子レベルでの細胞への影響を検証した。 ヒトiPS細胞からニューロスフィアへの神経幹細胞分化系を用いて、5種類の化学物質を複合暴露した結果、NESなどの神経幹細胞マーカーの発現量には、化学物質暴露群と対照群の間で有意な差は認められなかった。一方、神経細胞マーカーの発現量は、対照群に比べて化学物質暴露群で有意に増加した。さらに、各分化段階の神経細胞マーカーについて解析したところ、初期の神経細胞マーカーに比べて、分化が進んだ段階で発現するMAP2などの成熟神経細胞マーカーの発現増加が、化学物質暴露群で特に顕著であった。さらに、ニューロスフィアに化学物質を暴露し、その後、継代と同時に化学物質を除去して培養を続けたところ、化学物質を除去したあともニューロスフィアにおける神経細胞マーカー発現は有意に高い結果となった。このことは、一過的に受けた化学物質の影響が長期に渡って続くことを示すものである。本年度までの解析より、化学物質暴露によって神経幹細胞で発現状況が乱される遺伝子群の同定に成功した。これらの遺伝子群は今後、化学物質による神経細胞への影響を評価する上で、新たな遺伝子マーカーとしての活用が期待できるものと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き化学物質による神経細胞分化への影響を解析していく。具体的には、化学物質を暴露したニューロスフィアを神経細胞、およびグリア細胞に分化させ、化学物質が神経幹細胞のその後の細胞分化にどのように影響するのか、さらに、化学物質暴露によるニューロスフィアでの神経細胞マーカーの発現上昇について、その意義を検証していく。また、ニューロスフィアでの化学物質による遺伝子発現制御の乱れについて、DNAメチル化アレイを用いた網羅的なエピジェネティック解析を行い、化学物質によってエピジェネティック変異が生じる遺伝子領域の絞り込みを行う。これらの結果は、従来の遺伝学による遺伝子変異解析とともに、エピジェネティック変異といった新たな指標に基づく神経分化異常の原因究明に繋がり、自閉症の発症メカニズムの解明にも新たな知見を与えるものと考えられる。
|
Causes of Carryover |
昨年度研究が大幅に進み、その分必要となった試薬を昨年度購入した。故に、本年度に使用した試薬代(物品費)を当初の予定よりも低く抑えられたため、次年度使用額が生じる結果となった。
|
Research Products
(1 results)