2018 Fiscal Year Research-status Report
中分子量高分子化合物と環境化学物質の複合影響の解析
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18K11682
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
四ノ宮 美保 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (60291069)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 高分子化合物 / 環境化学物質 / 細胞毒性 / 複合影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境中には多様な化学物質が混合物として存在しているが、高分子化合物と環境化学物質の複合影響について検討した研究報告例はこれまでほとんどない。そこで研究代表者らは、高分子化合物共存下における環境化学物質の細胞毒性等への影響について検討することにより、新たな複合影響の予測手法確立のための基盤を形成することを目指している。高分子化合物としては水に対する溶解性等を考慮し、特に中分子量範囲(MW 600~2,000)の高分子化合物を対象としている。 国内外の論文や報告書等をもとに、使用量が多くかつ荷電状態の異なる4種類の高分子化合物を選択し、まず、それらの高分子化合物が単独でSH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫由来)の増殖・生存に与える影響を比較検討した。その結果、陽イオン性の高分子化合物であるポリエチレンイミン (PEI) が最も強く細胞増殖・生存を抑制する一方で、陰イオン性の高分子化合物であるポリアクリル酸は1mg/mL未満の濃度ではほとんど影響を与えないことが判明した。 次いで、これら4種類の高分子化合物(中分子量範囲)の共存下で5種の環境化学物質について細胞増殖・生存に与える影響を評価した。その結果、特定の組み合わせにおいて、それぞれの毒性の単なる相加効果とは異なる顕著な現象がみられることを見出した。PEIは、それ単独の添加では細胞増殖・生存について抑制効果を示さない濃度において、チウラムによる細胞毒性を相殺することが示された。一方で、ポリオキシエチレン部分を有する中性のTween20は、単独で抑制効果を示さない濃度で、難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA (TBBPA) による増殖・生存抑制効果を増強することが示された。今後これらの複合影響のメカニズムに関して、解析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、2018年度に河川水と底質試料から対象分子量範囲の高分子化合物の定性・定量分析を実施し、検出される化合物とその環境中における濃度範囲を明らかにすることを予定していた。しかし、環境試料の前処理方法の検討に時間を要したため、実試料の調査にはもう少し時間が必要となった。一方で、高分子化合物共存下における農薬等の環境化学物質の神経細胞への影響を評価したところ、特定の組み合わせにおいて、各物質による毒性の単なる加算効果としては説明のつかない現象がみられたため、一旦、研究の軸足を細胞毒性の評価の方に移した。このため、環境試料の分析実施の点でやや遅れが出た。
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Strategy for Future Research Activity |
環境試料の前処理方法についての問題点を整理・解決し、昨年度に予定していた埼玉県下の河川水と底質試料における対象分子量範囲の高分子化合物の定性・定量分析を実施する。これにより、検出される化合物とその環境中における濃度範囲を明らかにする。 神経系細胞への複合影響については、得られた環境測定結果等を参考にし、高分子化合物と環境化学物質を4種類程度増やしてSH-SY5Y細胞に対する増殖・生存の評価を行う。さらに、これまでに見出した特定の化合物の組み合わせも含めた毒性メカニズムを解析することにより、共存の影響を評価する。 また、Caco-2細胞(ヒト結腸癌由来)を用いた実験等により、高分子化合物共存下での環境化学物質のbioaccessibility及びbioavailabilityの検討を行う。Bioavailabilityについては、環境化学物質のtight junctionの透過性や細胞反対極への移送率について評価する。検討結果から共存する高分子化合物のイオン性(陽イオン性、陰イオン性及び中性)や部分構造の効果、及び化学物質の物理的性質(水・オクタノール係数など)や特異的な官能基との関連性を見出す。一方で、環境化学物質の高分子化合物への吸着挙動を解明し、毒性やbioaccessibility及びbioavailabilityとの関連性についても検討する。 最終年度の2020年度には、細胞毒性メカニズム及びbioaccessibility等の解析についての研究内容を総括し、研究成果を論文化する。
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Causes of Carryover |
環境試料中における中分子量範囲の高分子化合物の分析方法の確立に至らず、実試料の分析を実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。 2019年度は、河川水及び底質試料での分析方法を再検討し、実試料の調査を行うことを予定しており、差額はその検討及び調査に必要な分析用カラムや前処理用の消耗品等の購入に充てる。
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