2020 Fiscal Year Research-status Report
ピンサー機能を附与したジフェノールを鍵とする高選択的パラジウム抽出剤の革新的開発
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18K11705
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
山田 学 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (90588477)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ピンサー抽出剤 / パラジウム / 溶媒抽出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ピンサー配位子特有の性質である特定元素と特異的な結合を形成する能力を附与したパラジウム抽出剤を開発し、二次資源に含まれるパラジウム(Pd(II))を高選択的・高効率で回収できる抽出システムの構築を目的とする。 令和2年度は、これまでに合成した架橋部にスルフィド基を有する2,2´-スルファンジイル-4,4´-tert-ブチルジベンゼンチオールのチオール部位にオクチル基を導入した抽出剤について、Pd(II)に対する抽出特性をはじめ、抽出メカニズム、二次資源である使用済み自動車排ガス浄化触媒の浸出溶液の原液からPd(II)を効果的に抽出できるか詳細に検討を行った。 本抽出剤は、希釈剤としてトルエンが最も良く、振とう時間30分でPd(II)の抽出率が飽和に達することが判った。また、塩酸濃度が上昇するにつれて、抽出率は減少し、塩酸濃度4MではPd(II)の抽出率は最も低い値を示し、塩酸濃度を4M~10Mへと濃度を変化させていくと、抽出率は上昇した。単結晶X線構造解析により、抽出剤:Pd(II) =1:1の抽出錯体を形成して抽出されることが明らかとなった。 Pd(II)に対する選択性を確認するため、自動車排ガス触媒に使用されている白金族金属をはじめ、レアアースやレアメタル、ベースメタルを含む13種の金属を0.1M塩酸に溶解した模擬水溶液を調製し、抽出実験を実施した。その結果、Pd(II)を高選択的、高効率(99%以上)で抽出できており、他の金属種の抽出率は5.0%以下であり、Pd(II)に対して高い選択性を示すことが示された。最後に、実際の二次資源である使用済み自動車排ガス浄化触媒の浸出原液からPd(II)を効果的に抽出できるか評価した結果、Pd(II)を92%程度で選択的に抽出できており、他の金属種はほとんど抽出されておらず、Pd(II)に対して高い選択性を示すことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度に開発した抽出剤のPd(II)に対する抽出特性や最適な抽出条件、抽出メカニズムの検討を行った。Pd(II)の抽出特性や最適な抽出条件の評価では、希釈剤の選定、抽出対象となるPd水溶液の塩酸濃度、振とう時間など、Pd(II)の抽出率に与える主要な条件を詳細に調査した。抽出剤の濃度や塩酸濃度、振とう時間などの最適な抽出条件を見出すことができ、本抽出剤のPd(II)に対する高い抽出能力を示すことを明らかにすることができた。さらに、実際の二次資源である使用済み自動車排ガス浄化触媒の浸出原液からPd(II)を高選択的かつ効果的に抽出できることも明らかにすることができた。Pd(II)の抽出メカニズムの検討では、単結晶X線構造解析により実施し、新たに本抽出剤の類似化合物である2,2´-スルファンジイル-4,4´-tert-ブチルジベンゼンチオールのチオール部位にメチル基を導入した化合物を合成し、Pd(II)抽出後の有機相からPd(II)錯体の単結晶を作製することで検討を行った。その結果、本抽出剤はピンサー配位子のように抽出剤中の3元素でPd(II)を捕捉するのではなく、架橋部の硫黄元素とチオエーテル部の硫黄元素の2元素で抽出していることがわかった。 架橋部がメチレン基である2,2´-メチレン-4,4´-tert-ブチルジフェノールを出発物質とした抽出剤の収量の改善における合成条件の精査では、チオカルバモイル基の導入と熱転位反応以外は効果的に目的物を合成できることを見出した。また、イソフタルアルデヒドを出発原料としたチオアミド基を有する抽出剤の合成の最適条件を精査できた。 以上のことから、計画通りに研究を遂行したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえ、次の課題に重点的に取り組む。 Pd(II)の抽出メカニズムから架橋部に硫黄を持つ抽出剤は、ピンサー配位子固有の機能を有していないことがわかった。おそらく、架橋部の炭素-硫黄間の結合距離が炭素-炭素間の結合距離よりも長いことからPd(II)を抽出剤中の3つの硫黄元素で捕捉できなかったと推測される。今後の研究では架橋部にメチレン基を有する二量体の合成に取り組み、ピンサー配位子特有の金属捕捉機能を有する抽出剤の開発に取り組む。これまでの架橋部にメチレン基を有する二量体の合成に関する研究で明らかとなったように、2,2´-メチレン-4,4´-tert-ブチルジフェノールのヒドロキシ基をチオ―ル基に変換する際の合成が低収率となっており、特に熱転位反応では、目的物の生成以外にも分解反応も同時に起こるため、最も収率が悪い。そこで、ベンゼンチオールを出発原料とした2,2´-メチレン-4,4´-tert-ブチルジベンゼンチオールの効果的な合成法を模索し、チオエーテル化反応による最終目的物の効果的な合成法を目指す。さらには、合成に成功した抽出剤のPd(II)の抽出特性を明らかにするとともに、ピンサー機能を有した抽出剤に成り得るか検討を行い、二次資源からのPd(II)の効果的な回収ができるかも合わせて調査する。
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Research Products
(4 results)