2019 Fiscal Year Research-status Report
バイオ水素ガス生産の基盤技術となる嫌気性細菌の遺伝子改変技術確立とその応用
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18K11708
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
木村 哲哉 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (00281080)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Clostridium / 水素ガス / 乳酸デヒドロゲナーゼ / エタノール耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
嫌気性微生物の中には水素ガスを高生産する細菌が含まれるが、当研究室で単離したC . paraputrificumはキチンを炭素源として水素ガスを高生産する。この菌の遺伝子改変による水素ガス高生産性株の分子育種には、水素ガス生産経路解明が必須であるが、嫌気性細菌の代謝経路は好気性菌のものとは異なり不明な点も多い。 当研究室では細菌のGroupIIイントロンを利用した遺伝子破壊法を応用したClosTron法による遺伝子破壊に成功している。水素生産のカギと予測される乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊したところ水素ガスの増生産に成功した。このことは水素ガス生産にはピルビン酸からアセチルCoAへの代謝経路が重要であることを示唆しているが、乳酸デヒドロゲナーゼの破壊による水素ガス生産が、水素生産に関わる遺伝子の発現レベルでの結果なのか不明であった。そこで、ビルビン酸からアセチルCoAを経る下流の代謝に関わる遺伝子群の発現を野生株と破壊株で比較を行った。本菌の遺伝子発現定量法が確立していなかったので、培養前期と中期の菌体からRNAを抽出してリアルタイムPCR法で遺伝子の発現を定量できる実験系を確立し、各遺伝子の発現を調べた。その結果、野生株と乳酸デヒドロゲナーゼ破壊株で遺伝子発現に差は見られなかったことから、代謝の変化は遺伝子発現量ではなく、代謝の流れが変化した結果であると推測された。 水素生産を増加させたときに、酢酸やアルコールの生産も増加したが、最終的には工業的に利用価値の高いアルコールの生産を増加させることが重要である。しかし、本菌がどのくらいのアルコール耐性を持つのか不明であったため、様々なアルコール濃度で培養を行ったところ、1%(v/v)のエタノールでも増殖が遅れるものの生育が可能であった。このことは、代謝改変によって本菌のアルコール生産性を高められる可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和元年度中にC. paraputrificumの水素生産代謝マップを作成し、複数の遺伝子改変を組み合わせて水素生産の至適化と有用物質の生産増加を行う予定であった。具体的には、工業的な価値の低い酢酸の生産を減少させ、工業的に価値が高くNADHを酸化して再利用 する経路を担う酪酸やエタノールの生産を促進するように遺伝子改変を行う予定であった。すなわち、乳酸と酢酸生産経路をターゲットにして複数遺伝子の破壊を行い、これらの生産が極めて低い株を作出することを目指していたが、これら二つの遺伝子を破壊した株でも酢酸の生産を大幅に減らすことが出来なかった。酢酸を生産する経路は生育に必須なATPを生産する経路でもあるが、この経路の遺伝子を破壊しても酢酸の生産は約3割減少するのみであり、生育速度も大きく低下しないことから、予測された経路以外にも酢酸を生産する経路が存在する可能性が示唆された。この現象は他のClostridium属でも報告されており、 興味深いが今後の検討課題である。もう一方のターゲットであるR. josuiの遺伝子改変技術を確立と、植物セルロース繊維の分解能を向上については、R. josuiのプラスミドDNAによる形質転換効率の向上については、 嫌気チャンバーの不調などにより十分な実験をすることが出来ずに停滞している。嫌気チャンバーについて嫌気度が低下する原因をつきとめ状況の改善を施した。
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Strategy for Future Research Activity |
C. paraputirificumについては、水素ガス生産のカギとなる代謝経路の特定、工業的価値の低い酢酸やギ酸の生産経路の遺伝子工学的な破壊、工業的な価値の高いエタノールと酪酸生産経路の解明と増強を目標とする。とくに、最終年度であることから、本研究の中心である本菌の水素ガス生産能について、水素ガス生産経路を分子遺伝学的な手法によって決めることに重点をおく。具体的には、水素ガス生産の最終段階で機能すると予測されるヒドロゲナーゼ遺伝子の解析、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換経路で働く酵素遺伝子の解析を中心に行う。また、エタノール生産と並んでアルコール生産経路についても明らかにして、バイオ燃料増産への足掛かりとする。R. josuiの遺伝子改変技術の確立については、形質転換効率の向上のための条件検討を再度行い、安定的に遺伝子組換えが行える条件を確立する。また、両株の共培養最適化によるセルロースから水素ガスの効率的生産システム構築については、すでに行った予備的な実験を基に条件を決めて、両株の増殖測定や代謝産物の分析など詳細な解析を進める。
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Causes of Carryover |
年度末において、有機酸分析用の高速液体クロマトグラフィーと嫌気チャンバーの修理を予定していたが、高速液体クロマトグラフィーについては修理業者のスケジュールがいっぱいとなり、年度内に間に合わなかったこと、嫌気チャンバーのガス漏れについては研究室内で簡易的な修理で応急手当が出来たことで本格的な修理を次年度に繰り越すことになったため。
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