2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K11724
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
片山 昇 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (30646857)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | チシマザサ / 撹乱応答 / 補償成長 / 生態系サービス / 北方林 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続的で効率的な生態系サービスの利用には,人為的撹乱と生態系サービスの関係を科学的に調査し,撹乱後のサービスの変化を予測する必要がある.本研究は「山菜」を材料にして,人為的撹乱に対する山菜の応答を調べ,生態系サービスとしての山菜の利用可能性(ここでは,主に山菜の生産量)の変化を予測することを目的とする.この目的の達成のために,基礎生態学で培われたアプローチを用いた大規模な野外調査と操作実験を,北海道大学天塩研究林で実施した. まず,タケノコの生産性に及ぼす収穫の影響を調べるため,2013年に設置した20ヵ所の実験区で追跡調査を行った.本実験区の半数は収穫区として2013年から2015年の間タケノコを収穫し,もう半数を対照区としてそのまま維持していた.収穫していた期間は,収穫翌年のタケノコの生産数は対照区よりも収穫区で常に高かった.しかし,収穫をやめて2年経過した2018年には,処理区間でタケノコの数や太さに違いはみられなくなった.この結果は「収穫によって高まるタケノコの生産性は,収穫を継続することで維持される」ことを示す. 次に,タケノコの生産性に及ぼす地上部のササの刈取りの影響を調べるための野外実験を実施した.2016年にチシマザサの群落20ヵ所を選び,そのうちの半数を刈取区として地上部のササを刈取っていた.もう半数は対照区としてササを刈り取らない状況で維持していた.処理後3年経過した2018年には,タケノコの生産数は処理区間で差がみられなかったものの,刈取区のタケノコは対照区よりも有意に細かった.このように,「地上部の刈取りのような破壊的な撹乱による負の影響は長期間継続する」と思われる. 次年度(2019年)に,タケノコの他にギョウジャニンニク,タラノメ,フキを対象とした収穫実験を実施する.その実験に向けた予備調査(処理前の山菜密度の測定)を2018年に行なった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,チシマザサのタケノコなどを対象として,「山菜の収穫」と「森林施業(特に地上部の刈取り)」という2つの人為的撹乱が,翌年の山菜の生産性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする. 昨年(2018年)の調査では「タケノコの生産性に対する収穫による正の効果は,収穫を止めるとなくなるが,破壊的な撹乱による負の効果は長期間継続する」という新たな知見を得た.本成果は,北海道大学天塩研究林の利用者セミナーで発表し,聴衆から高評価を得た.今後,この成果を国内外の学会で発表し,論文としてまとめる予定である. タケノコ以外の山菜を対象とした収穫実験に関しては,昨年度に実験場所の選定と予備調査を終えたところである.野外で正確な実験を行うには初期条件(特に山菜の生産性)の等しい場所を慎重に選ばなければならない.昨年に最適な候補地を選定したので,本年にその場所で本格的な実験を実施する. 以上の状況を考慮し「やや遅れている」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も収穫という人為的撹乱に対する山菜の応答を調べ,生態系サービスとしての山菜の生産量の変化を予測するための実験を実施する.そのために以下の2つの研究課題を行う. 1) タケノコの生産性と撹乱応答に対する環境要因の効果 本課題では,広範囲に及ぶ野外調査と野外実験を北海道大学・天塩研究林で実施し,チシマザサのタケノコの生産性を決める環境要因を探索するとともに,撹乱応答の強さに対する環境要因の効果を調べる.そのために,まずチシマザサの生育地の環境にばらつきが出るように,研究林内に2m四方の調査プロットを50ヵ所設置してタケノコの生産数を測定する.そしてタケノコの生産性が偏らないように50ヵ所の調査プロットを「収穫区」と「対照区」に分けて,収穫区でタケノコを収穫する.次に各プロットの環境要因として,光条件(開空度),土壌条件(水分含有量・pH・無機態窒素量),地形条件(標高・傾斜方向と角度,GISデータから分析),気象条件(気温・降水量)を記録し,それらがタケノコの生産数にどのように関連するかについて,共分散構造分析により探索する.1年後に,各プロットのタケノコの生産数を測定し,前年のタケノコの生産数との比較により,収穫に対するチシマザサの撹乱応答に関与する環境要因を特定する. 2) 収穫に対して応答しやすい山菜の特徴 収穫に対する山菜の応答の包括的な理解を目指し,本課題では,チシマザサのタケノコの他に新たに3種類の山菜(ギョウジャニンニク,タラノメ,フキ)を対象とし,食用部位の収穫がその後の山菜の生産性に及ぼす影響を調べる.それぞれの山菜の生育地に「収穫区」と「対照区」を設け,収穫区の山菜の食用部位を採取する.収穫の翌年に出現した山菜の食用部位の量や数を調べ,収穫の影響を評価する.なお,実験区の数(繰り返し数)や大きさ(面積)は,それぞれの山菜の生育状況を考慮して決める.
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