2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K11731
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
高田 雅之 法政大学, 人間環境学部, 教授 (40442610)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 貴大 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (30706619)
富田 啓介 愛知学院大学, 教養部, 准教授 (90573452)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 湿原 / 湿地 / 小規模 / 保全活動 / 生態系サービス / 文化サービス |
Outline of Annual Research Achievements |
地域の生態系を特徴づける小規模湿地を地域の人々の手によって保全するための、「保全活動によって得られる価値評価」と「それを動機としてさらに価値を向上させるプロセス提起」という目的に照らして、新たな箇所を加えて引き続き事例調査と分析を行った。 その結果、湿地保全を担う地域の団体が、湿地の自然タイプに関わらず、保全対象が会の設立に先立ち公的な保護区になっている「保護指定先行型」と団体設立により保護が目指される「団体設立先行型」、また、保護対象が特定湿地に絞られる「特化型」と、地域全体の自然環境保全を行う中で湿地保全を活動に組み入れた「編入型」に分類されることが明らかになるなど、保全団体と湿地の関係性についての特徴が明らかになった。また、観察会のような学校または社会教育の場の提供、研究者らを受け入れ協働することによる自然環境研究の促進、団体会員や来訪者の生きがいの創生といった事例から、保全団体が新たな湿地の生態系サービスを創出し、またその供給の量や範囲を拡大させていることも明らかになった。 また新たな視点として、参加型アプローチによって「地域の関わり」や「生態系サービス価値」を知ることに加えて、自分達の活動が他の地域での活動の参考となる、または他の地域での取り組み事例を知ることによって、より活動を触発する効果への増幅フィードバックの可能性が見出された。 さらに、保全活動に伴う文化サービスの評価手法検討の試みとして、文化財としての湿地を保全する活動を文化サービスと見なし、将来世代に残したいという遺産価値に注目して需要と供給のバランスという視点から分析を行った。長崎県を例として既存の需要(各自治体の政策に関する意識調査の結果)と供給(文化財数)を比較する枠組(Maron et al. 2017)を参照して実験的に評価を行い、課題を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査対象箇所として、計画では保全活動を行っている湿地4箇所、未保全の湿地2箇所、その他参考分析湿地8箇所を予定としていたのに対して、事例やフィールドデータをより多く分析に用いるため、昨年度に報告した保全活動湿地4箇所、未保全湿地3箇所、参考湿地3箇所に加えて、保全活動湿地の二ノ池湿地群(愛知県)、未保全湿地の久良木湿地(長崎県)で地下水位観測を実施するとともに、尼ヶ台湿地植物を守る会(千葉県)、ふるさと自然の会(長崎県)、長久手湿地保全の会(愛知県)、西中国山地自然史研究会(広島県)に対して湿地の保全活動に関する聞き取り調査や現地確認等を実施し、湿地管理団体ふるさと自然の会へのヒアリング調査では、保全活動推進モデルの構築に資する評価対象になりうる生態系サービスに関する情報を得ることができた。これらの調査結果は、昨年度作成したデータベースに取りまとめた。 これらの小規模湿地の実態と保全について様々な事例を収集分析する中で、天然記念物や様々な保全制度などが文化サービスに影響し、行政の役割との関わりを含めて様々な形で相互に作用している姿が見えてきた。 生態系サービス評価については、湧水湿地と泥炭地湿原での水位変動解析から、前者では水量供給という供給サービスが、また後者では水量調節(一次的ストック)という調節サービスが重要であることが示唆された。文化サービスの評価に関しては、将来世代に残すことを文化的側面として捉え遺産価値の需要と供給やそれらの時間的な変動に基づく評価のための枠組みを検討し試行した。他の地域における活動事例が及ぼす作用が重要であるという新たな視点を含め、これらを次年度における保全推進のための実装可能な「価値認識⇒保全効果⇒価値上昇」の循環プロセス提示に向けて生かせるものと考えられることから、上記区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2年間で多くの事例を見出し聞き取りや資料収集などによる情報を得るとともに、地下水位や現地調査などのデータを取得する見込みを得ることができた。これらを生態系サービスの観点から検討を深め、評価する手法を取りまとめる予定である。特に文化サービスに関しては、遺産価値や保全制度との関わりなどを含めて様々なアプローチや考え方が予想され、必ずしも解析的手法に頼るのみならず、地域で活動する団体や人々にも理解しやすい記述的手法なども視野に検討することが肝要である。 また他地域の活動が、別の地域の活動を促進する、あるいは自分達の活動が別な地域の活動団体に受け入れられることで自らのモチベーションを高めるといった可能性も見いだされ、その点からもデータベースの整備と、発信に向けた何らかの取りまとめを目指すことが重要である。 保全活動団体が存在しない湿地については、どのような情報を提供することで、地域で湿地の価値が認識され、保全活動の開始につながるのかについて追加的な聞き取りを含めて検討を深める。 これらの結果も踏まえながら、地域の生態系を特徴づける小規模湿地を地域の人々の手によって保全するための実装可能な循環モデルの提示に向けて評価し取りまとめを行う。 以上の成果については学会等で速やかに発表する予定である。
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Causes of Carryover |
現地調査及び関係者等への聞き取り調査は、例えば近傍で開催される学会参加と兼ねて行う、あるいはメンバーが分担して行うなどにより予算を節約するに至った。また2-3月に実施を予定していた一部の学会、保全団体への追加の聞き取り調査、現地データ回収などが新型コロナウイルスへの対応のため中止または自粛となり、一部予算執行に至らなかった。 これらの予算を活用して、最終年度における追加的な聞き取り調査や現地確認、資料収集等を行い、最終成果の取りまとめに生かしていく計画である。
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Research Products
(11 results)