2019 Fiscal Year Research-status Report
定常経済への移行と生活世界の変容:科学と物語の統合による全貌と詳細の解明
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18K11751
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
金 基成 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (70345700)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 定常経済 / 生活世界 / 持続可能な発展 / 持続可能な社会 / 環境政治 / 環境言説 / エコロジー / 政治変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
上記の期間中には、文学言説に見られる定常経済への移行と生活世界の変容について検討した。同作業は、本研究者だけでなく、担当科目の受講者も参加させる形で行われた。その他、本研究に参考になる研究動向の把握や資料収集の活動も行った。 第一に、文学言説の分析においては、A・カレンバックの小説『Ecotopia: The Notebooks and Reports of William Weston』およひ『Ecotopia Emerging』の内容が検討された。小説の中のエコトピアという国の政策理念を定常型経済の実現として読み替えて理解しても不自然なところはない、とのことを確認するとともに、その国における生活世界の特徴について、日常生活から公共的生活に至る具体的描写を通して、追体験する作業を行った。 第二に、同じ作業は、本研究者の大学での担当授業でも行われた。受講者たちは、定常経済に関する講義を受けた後、一部の学生は上記の小説を課題図書として読んで感想を発表した。他の学生たちはその発表を聴き、定常経済とその生活世界に関する自分の考えを短いエッセイとしてまとめた。 第三に、上記の研究を補完するための文献研究と、資料収集も行われた。文献研究としてはW・E・モリスの『ユートピアだより』のような文学作品のほか、定常経済、エコロジズムなどに関する理論研究の成果も検討された。その他、本研究にとって参考となる分析の視点や研究動向などを把握するため、関連学会および研究会にも積極的に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、関連文献の分析が進められ、その成果の一部は学会で報告された。学会や研究会に参加することを通じて本研究課題の遂行に必要な知見や資料収集も計画通りに行われた。 第一に、この研究の一環として、毎年、担当授業において同研究テーマに関する学生たちとの意見交換が行われているが、その内容の一部を日本ESD学会(2019年8月19、宮城教育大学)で発表した。たとえば、定常経済という言葉を初めて知った人は多数を占めていたが、約七割の学生は定常経済への移行は必要だと答えた。定常経済に否定的な意見の人もいたが、彼らは定常経済の実現可能性について懐疑的であった。いずれにしても、定常経済という概念にふれることができたことについては、ほとんどの学生が肯定的に評価していた。このことは、環境教育において、持続可能な発展の意味の境界を定常経済という考え方にまで拡張する必要がある、ということを示唆している。 第二に、関連学会および研究会にも参加し、研究動向の把握および資料収集を行った。政治学会研究大会(2019年10月5~6日、成蹊大学)では、エネルギーデモクラシーの他、原発をめぐる政治の変容などについて見聞を広めることができた。市民・地域共同発電所全国フォーラム(同年11月1~3日、岡山市オルガホール)では、農業、農地、再生可能エネルギーを守り育てる市民活動について知見を得ることができた。地方自治学会(同年11月23~24日、日本大学法学部)では、自治体環境政策、合意形成、災難対策法制に関する最新の研究動向を把握することができた。日本ミニパブリックス研究フォーラム(同年12月7日、東京工業大学)では、合意に基づく意見形成の可能性と手法について学んだ。以上のような内容は、定常経済への移行シナリオを構想する上で大いに参考になるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後においては、今までの研究成果を踏まえて、定常経済の移行と生活世界の変容に関する蓋然性の高いシナリオを検討する予定である。また、このようなシナリオを準拠点としつつ、定常経済の実現に向けた現実世界における萌芽的試みについても調査を行う予定である。 そのため、まず、定常経済に関する科学的言説と文学的言説のストーリーラインを比較しながら再構成する作業を行う。この過程において、分析対象となった文献や文学作品に関する研究成果についてもさらなる検討が必要であり、電子ジャーナルや電子書籍の形での資料の入手も必要となる。 なお、定常経済への移行に関する萌芽的試みついて事例を調べ、次の研究に繋げる準備を進める予定である。事例調査については、まずはインターネットを使って行い、日本国内の事例については、コロナ禍による制限がない限り、調査のための出張も行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度における文献購入および出張の経費として、わずかでありながら予算の一部を残した。この金額については、次年度における書籍の購入や関連学会・研究会などへの出張経費として支出する予定である。
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Research Products
(1 results)