2020 Fiscal Year Research-status Report
The transition to a Steady-State Economy and Resultant Changes in the Lifeworld: A Complementary Review of Scientific and Literary Works
Project/Area Number |
18K11751
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
金 基成 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (70345700)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 定常経済 / 生活世界 / 脱成長 / エコロジー / ユートピア / 環境政治 / 政治変動 / 文学批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は、定常経済に関する社会科学分野の研究成果およびユートピア文学の研究成果を相互補完的に検討することを通じて、定常経済への移行に伴う生活世界の変容の全貌を描き出すことである。この研究は3段階で進行中である。まず、2018年度(平成30年度)に実施した第1段階の研究では、成長の限界と脱成長の経済に関する社会科学分野の先行研究の到達点について幅広く検討した。また、地球許容範囲に関する科学的言説についての検討も行なった。2019年度(令和元年)の第2段階の研究では、定常状態の経済への移行期における生活世界の変容について、環境思想、および、グリーン・ユートピア文学分野の作品を中心にレビューを行なった。 特に、アーネスト・カレンバックの小説に描かれている政治変動のストーリーラインと日常生活のディテールを綿密に分析する作業を行なった。この研究期間の成果の一部はすでにESD学会を通じて公表されている。 このような研究成果を踏まえて、2020年度(令和2年度)には第3段階の研究として、定常経済への移行と生活世界の変容に関する蓋然性の高いシナリオを描き出す作業を行なった。関連して、特に以下の点に重点を置いて研究を進めた。第1に、社会科学の知見と文学的言説を融合させることに対する方法論的根拠を補うため、批評理論一般に関する文献調査を行なった。第2に、同じ目的で、環境と自然という観点から文学作品を解釈するエコクリティシズム分野の様々な理論と批評の成果について幅広く検討した。第3に、以上のような研究とあわせて、環境政治学分野の理論的成果と批評理論の融合可能性についても検討を行なった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全般的に、当初の予定より研究の進捗状況はやや遅れている。2020年度においてはコロナ禍の影響ですべての出張を自粛したことに加え、上述の通り、研究を進める過程で文献研究の範囲と対象を広げる必要があったからである。特に、グリーン・ユートピア文学に関する既存の研究成果を幅広くレビューし、それをエコロジー経済学の研究成果と比較検討する作業を補強しなければならなかった。このような諸事情から、当初計画していた出張目的の旅費支出は文献購入のための支出に切り替えざるを得なかった。このような理由から、文献レビューにさらなる時間を割愛せざるを得なくなり、結果的に当初の研究計画より進捗状況がやや遅れることとなった。遅れている部分に関しては、当初2020年度に終了予定だった研究期間をもう1 年延長させてもらうことで対応している。 その一方で、定常経済に対する若い世代の考えを調べる試みは例年通り行われた。たとえば、学部学生を対象としたオンライン形式の授業で、定常経済のストーリーラインを紹介し、課題図書などを読み、短いエッセイの形で意見をまとめてもらった。コロナ禍の影響で対面授業での討論やセミナーの場を設けることはできなかったが、オンライン形式である程度の目的は達成することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度には当初の計画通り、定常経済に関する社会科学的言説とそれに関する文学的言説とを融合させたストーリーラインの構築を目指す。また、定常経済という代案的な経済体制に移行していく経路についても、グリーン・ユートピア文学や批評から着想を得ながら一つのストーリーラインとして纏め上げる予定である。このような研究は主に文献研究の形で進められることになる。なお、現在、関連学会での研究成果の発表も計画している。 さらに、コロナ禍によってもたらされた経済活動の萎縮という状況を擬似定常状態と見做した上で、それに対する主要国・地域の対応の特徴についても検討を行なう予定である。特に、コロナ禍の影響で世界的に再び関心を集めているいくつかの経済政策、社会保障政策について、定常経済を支えうる一つの萌芽的試みという観点からその可能性について検討する予定である。このような視点は当初の計画には含まれていなかったが、定常経済と生活世界の変容の様相を推測する上で役に立つと考えられる。 冒頭でも言及したが、2021年度の研究は本研究の終了期限を1年延長した上で行なっている。購入予定だった文献などはすでに前年度の支出計画を通じて購入済みである。コロナ禍の影響もあって当初計上されていた旅費のための予算は文献購入の支出に当てられた。このような事情により、2021年度の研究に関する追加的予算は計上されていない。今年度もコロナ禍の影響で学会などはオンライン形式で開催される可能性が高い。したがって、追加予算を計上しなかったことによる本研究への影響はほとんどないと思われる。
|