2019 Fiscal Year Research-status Report
国際的な気候変動対策をめざす合意形成枠組み設計の研究-先進国と途上国の関係を軸に
Project/Area Number |
18K11756
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
新澤 秀則 兵庫県立大学, 国際商経学部, 教授 (40172605)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 晴雄 大正大学, 地域創生学部, 教授 (10144396)
秋田 次郎 東北大学, 経済学研究科, 教授 (10302069)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | パリ協定 / 国際的合意形成 / 先進国対途上国 / 国際交渉の動学性 / 経済理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第1の目的である,国際合意を実現すための国際的政策オプションの検討に関しては,パリ協定が途上国の参加を促すために許容した,さまざまなタイプの目標のうち,最も多くの国が採用した,BaU排出量に対する削減率で目標を設定する(以下BaU比排出量目標と呼ぶ)場合に絞って,次のことを明らかにした。①パリ協定に使われている環境十全性という言葉に定義がないので,適切な定義を検討し提案した。②BaU比排出量目標を大きく設定しがちなインセンティブを明らかにした。③BaU比目標に関して,COP24で決まった実施ルールが全体としてどのように対応しようとしているのかを実施ルールの決定文書をもとに整理した,などである。これらの分析の結果,パリ協定は環境十全性の点で脆弱であることを明らかにし,改善すべき点を明らかにした。COP24の結果に関する研究は,国際的にもまだあまり見当たらず,この研究成果は価値があると考えている。 本研究の第2の目的である,パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブの動学的な交渉分析による解明に関しては,これまでの交渉で,パリ協定第6条の市場メカニズムの輪郭が明らかになってきたことが重要であった。メカニズムに対する締約国の態度はさまざまであり,その利用や,他国の利用に対する立場がかなり異なるものと予想されるが,われわれの長期モデルの想定が,パリ協定においても部分的には合致する部分があることが確認できた。他方,当面の目標値に対する引き上げ要請も盛んにおこなわれ,果たしてパリ協定の個別目標値設定が,交渉と独立意思決定のいずれか,あるいはその中間を考えねばならないかという課題が,改めて浮上した。理論分析を応用する上での不足していた情報が得られ,現在の交渉方法の問題点を指摘するための準備が整ったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,パリ協定が京都議定書とは異なる点に着目して,それらについての実施ルールを含めた合意内容が合意形成にどのように影響するかを分析することを一つの目的としている。パリ協定が京都議定書とは異なる点はいくつかあり,そのうちの一つである異なるタイプの目標の併存については,分析が進んでいる。その成果は,環境経済・政策学会2019年度大会(9月28日~29日)で「パリ協定は環境十全性を保てるか BaU比排出量目標を中心に」というタイトルで発表した。 また,パリ協定6条の市場メカニズムの再編については,当初予定されていたCOP24では合意に至らず,さらに2019年COP25でも合意できなかった。しかしその内容は明らかになりつつあり,合意している内容の把握,合意していないことの交渉論点の把握,考え得る合意内容にもとづく機能の京都議定書の市場メカニズムとの比較などを進めている。他方,京都議定書12条クリーン開発メカニズムで生み出されて使われていないクレジットを利用可能にするかなど,合意されずに残されている項目も本研究にとって重要であり,この意味で,多少研究に遅れが出ていると言わざるを得ない。 また,5年ごとの目標更新の手続きによる目標の段階的強化について,COP24で合意した実施ルールに加えて,その後も続いている細かなルールに関する交渉も重要視して追跡している。2020年までに2030年目標の強化が要請されているが,相互の目標引き上げはやはり難しい。この目標強化要請のプロセスを分析することは,COP24で合意した内容の評価にもつながる。
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Strategy for Future Research Activity |
第1の研究目的である「京都議定書と異なるパリ協定の新たな試みが,合意形成にどのように影響するかの分析」については,COP24で決まったパリ協定の実施ルールの分析評価の論文はまだほとんどなく,本研究のこれまでの成果を早く雑誌に投稿する。 新型コロナウィルスの蔓延のために,2020年末に開催される予定だったCOP26は2021年に延期することがすでに決まっている。本研究は2020年度が最終年度なので,COP26の結果を含めた研究成果とすることができるかどうかが不確かな状況になった。したがって,合意したものの評価だけではなく,残されたオプションを並列比較するという方法でも研究を推進してゆく方針に切り換える。 ベースライン排出量目標と目標強化のしくみについては,具体的な事例を使いながら,分析を深める。 第2の研究目的である,「先進国と途上国の利害関係に焦点を当てつつ,パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブを,動学的な交渉分析によって解明する」ことについては,これまで,京都議定書とパリ協定を全体としてみた長期モデルの適用を目指していたが,パリ協定での市場メカニズムの導入が,程度の問題はあるが見込まれることから,パリ協定単独での適用も考察する。同時に,パリでの目標設定法に関して,交渉と独立行動との中間的な定式化が可能かも考察する。
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Causes of Carryover |
4回の研究会を予定していたが,新型コロナウィルスの蔓延により,3回だけの開催となった。うち2回は外部講師を呼ばない内部的な研究会とした。また,気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に2名がオブザーバー参加したが,1名は所属機関の研究費を使ったので,その分旅費が節約できた。 次年度は,新型コロナの影響で毎年年末に行われるCOPの翌年への延期が決まっていて,仮に2021年の3月までに開かれたとしても,その結果を本研究に反映することは難しいと予想される。たま,本来毎年5から6月に開かれる中間的な交渉会合が,2020年10月に延期されることが決まっている。このような中間的交渉会合も,交渉の内容を把握するためには有益で,これまでも度々参加してきたが,今度も従来のようにも研究者などのオブサーバーの参加を認めるかどうかはわからない。 このような状況下,基本的に臨機応変に研究課題を設定し直して進めるが,本研究は,次年度(令和2年度)が最終年度であるので,補助事業期間の延長も視野に,支出していくことにする。
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