2020 Fiscal Year Research-status Report
国際的な気候変動対策をめざす合意形成枠組み設計の研究-先進国と途上国の関係を軸に
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18K11756
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
新澤 秀則 兵庫県立大学, 国際商経学部, 教授 (40172605)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 晴雄 兵庫県立大学, 国際商経学部, 客員研究員(教授) (10144396)
秋田 次郎 東北大学, 経済学研究科, 教授 (10302069)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パリ協定 / 国際的合意形成 / 先進国対途上国 / 国際交渉の動学性 / 経済理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第1の目的である、国際合意を実現するための国際的政策オプションの検討に関しては、2019年度に、パリ協定でBaU排出量に対する削減率で目標を設定している国が多いことに着目して、パリ協定が環境十全性の点で脆弱であることを明らかにし、改善すべき点も明らかにした。2020年度は、その分析をさらに充実させるために、2018年のCOP24で合意に至らなかったパリ協定の第6条の市場メカニズムの運用ルールが、排出量目標の多様性にどのように配慮するかに着目していた。また、5年ごとの目標更新の手続きによる目標の段階的強化について、2018年COP24で合意した実施ルールに加えて、その後新たに設定された交渉課題のひとつとしての各国の進捗を記録する方法で、排出量目標の多様性がどのように扱われるかを把握しようとした。しかしながら、2020年度は交渉自体が行われなかったので、合意前の各国の意見の把握を行うのにとどまっている。 本研究の第2の目的である、パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブの動学的な交渉分析による解明に関しては、米国の政権交代によって、2030年と2050年の目標の強化が主要国で進んでいることについて、またそこで市場メカにズムが果たす役割が明確ではないことについて理論的に勘案するため、分析枠組みの再構築を行った。以前の分析においては、前段階では、京都議定書のように先進国のみが削減義務を負いながら途上国の削減を融通できるようなメカニズムを採用し、後段階では先進国も途上国もともに義務を負う下での排出量取引を前提としていた。この分析枠組みを、できる限り、パリ協定が許すような市場を介さない場合をも含めた多様なメカニズムの形態を包摂するような枠組みに拡張しながら、結果の比較を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
外部講師を含む研究会を2回と、研究代表者と分担者のみによる遠隔の研究会とメールによる打ち合わせを随時行った。しかしながら、新型コロナウィルスの蔓延により、毎年6月に開催される気候変動枠組条約の補助機関会合と年末に開催される条約およびパリ協定の締約国会議(COP)が開催されず、本研究が着目していた交渉が決着しなかった。 京都議定書が3種類の国際的取引メカニズムを規定していたのに対し、パリ協定は2種類である。その詳細ルールが決着していない。パリ協定は、多くの国が排出量目標を約束したが、その代わり、BaU排出量に対する削減率やGDPあたりの排出量目標など、絶対量の排出量目標以外の多様な排出量目標の形式を許容するなど、国際的取引メカニズムの基盤として京都議定書とは大きく異なる。詳細ルール次第では、取引によって目標を損なうことにもなりかねない。また、詳細ルール次第では、京都議定書と比べて、パリ協定の国際的取引メカニズムの役割がかなり小さくなるのではないかと予想される。これらは本研究の第1と第2の目的の両方に関わる。 また、パリ協定の特徴である5年ごとの目標の前進をどのように担保するかも完全には決まっていない。これも、本研究の第1と第2の目的の両方に関わる。 我々としては、可能な限り、交渉の決着を待って研究のとりまとめを行いたいと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、6月に、毎年行われる実施に関する議論と科学技術的な助言を行う公式な補助機関会合に代わるものとして、決定を行わないという意味で非公式な補助機関会合がネット上で行われることが決まっていて、その他にも非公式な技術的ワークショップが各国の意見を募った上で開催される。それらは認定されたオブザーバーにも公開される。非公式とは言え、各国の意見が聞けるのは本研究にとってプラスになる。また去年延期されたCOP26が11月に開催予定で、そこではCOP24で決まらなかったパリ協定第6条(市場メカニズム等)の詳細ルールや、去年決めるはずだった各国の進捗を追跡するための共通表形式などが決まる予定である。 第1の研究目的である「京都議定書と異なるパリ協定の新たな試みが、合意形成にどのように影響するかの分析」については、それらの交渉を踏まえて、仮に交渉が決着しなくても、残されたオプションを並列比較するという方法で研究をまとめる。特に、ベースライン排出量目標と目標強化のしくみについては、具体的な事例を使いながら、分析を深める。 第2の研究目的である、「先進国と途上国の利害関係に焦点を当てつつ、パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブを、動学的な交渉分析によって解明する」ことについては、市場メカニズムあるいは代替的な手段を通じて国際的に効率的な削減が実施されることを前提に、ではその費用をどう分担するべきかを多段階的に交渉する際に生じ得る経済厚生のロスについて、京都議定書とパリ協定との相違点を踏まえつつ分析する。また、現在進行中の、急速な削減目標の引き上げについて、その要因の分析を追加的に行えることになったので、その政治経済的な分析も併せて行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究会を全て遠隔で行ったので、旅費が不要になった。また毎年5月から6月に開催される補助機関会合と年末に開催される気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)が延期になり、交渉内容の調査のための海外旅費が執行できなかった。 本研究は2020年度が最終年度であったが、本研究に関連する交渉の決着を待ってから最終的な研究成果を仕上げたいと考え、延長申請を行い、2021年度も本研究を実施することになった。2021年度も、当面対面による研究会の開催は見込めず、補助機関会合はバーチャルで開催されることが決まっている。そこで、2021年11月に延期されたCOP26の開催動向に注意を払いながら、臨機応変に予算を執行する。
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