2021 Fiscal Year Research-status Report
国際的な気候変動対策をめざす合意形成枠組み設計の研究-先進国と途上国の関係を軸に
Project/Area Number |
18K11756
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
新澤 秀則 兵庫県立大学, 社会科学研究科, 教授 (40172605)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 晴雄 兵庫県立大学, 社会科学研究科, 客員研究員(教授) (10144396)
秋田 次郎 東北大学, 経済学研究科, 教授 (10302069)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | パリ協定 / 国際的合意形成 / 先進国対途上国 / 国際交渉の動学性 / 経済理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第1の目的である、国際合意を実現するための国際的政策オプションの検討に関しては、2019年度に、パリ協定で政策の強化を行わない場合の排出量(BaU排出量)に対する削減率で目標を設定している国が多いことに着目して、パリ協定が環境十全性の点で脆弱であることを明らかにし、改善すべき点も明らかにした。2021年11月に行われたCOP26に至る過程で、多くの国が新たな目標の設定や既存の目標の更新を行ったが、その結果、BaU排出量比目標を掲げる国が増え、本研究の重要性は増している。同時に、各国の自発的目標を引き上げていくことがパリ協定の要諦であるので、今回の目標の更新がどのように行われたかを新たな分析課題として認識した。COP26決定について、本研究はBaU排出量比目標の取扱を中心にその内容の分析を試みた。その結果、各国の進捗を追跡するための共通表形式においては、COP24で決まったことの枠内で決着していることが確認され、これまでの研究成果の補充になった。 本研究の第2の目的である、パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブの動学的な交渉分析による解明に関しては、引き続き、途上国が義務を負わない片務的スキーム下の交渉を、途上国も義務を負う双務的スキーム下と比較し分析した。多段階交渉では、効率的でも極端に衡平を欠く配分は実現しないため、義務の双務化は政治的には試練である反面、実現すれば経済的には効率性を改善しうることを示した。さらに、別の文脈で各国の交渉力を内生化する試みに一定の成功を見たため、この応用可能性を検討し、通常の全員一致型交渉では、先進国側の交渉力が強まると予想される想定の下で、結果が保存されるという結論を得ている。また、多数決型の交渉では結果は確率的にならざるを得ないが、実際の交渉過程が、全員一致と言えるかどうかの詳細な検証も必要となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国連気候変動枠組条約の交渉プロセスは2021年度も引き続き、新型コロナウィルスの影響を甚大に受けた。本来であれば、COPに向けて段階的に予備的合意が積み上げられていくべきところ、COP26が開催されるまでは、公式の決定を一切行わない変則的な運用のもとで、補助機関会合や技術的ワークショップがオンラインで開催された。それらは認定されたオブザーバーにも公開され、本研究の参加者も分担して、それらに参加・傍聴し、関連文書の収集を行った。並行して複数の他の研究者やエキスパートとの意見交換を通じて、COP26に備えた。 2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26については、政府や研究参加者所属大学の方針に従い、現地参加を断念して、オンライン参加に留めつつ、決定文書の収集と分析を行った。しかし、オンライン参加だけを通じての取材には限界があり、本研究においても、各国の目標達成への進捗を追跡するための共通表形式についての交渉担当者より、研究会において、CO26決定に至る交渉の状況を事後的に聞きとる機会を設けるなどして、事前の予想と実際の進捗とを整理し理解することに努めた。これらのプロセスに日数を要した。 共通表形式については、COP24で決定したことを表にするだけで、特に目新しいことはなかった。そこで、目標を更新した国がどのように更新したかや、今後の目標の強化に重要な役割を果たす共通表を使った報告・審査・多国間検討のプロセスと国際的な監視についての分析を行うことに方針転換をした。また、決着したパリ協定の第6条の市場メカニズムの運用ルールが、排出量目標の多様性にどのように配慮するかについては、引き続き分析を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
第1の研究目的である「京都議定書と異なるパリ協定の新たな試みが、合意形成にどのように影響するかの分析」については、特にBaU排出量比目標と目標強化のしくみについては、COP26に至る2030年目標の更新を具体的事例として分析を行う。さらに、今後の目標の強化に重要な役割を果たす隔年透明性報告書で、各国が目標の達成に向けた進捗をどのように評価するのか、特に各国が自由に設定できる指標について調査し、分析を深める。また、COP26で決着したパリ協定第6条の市場メカニズムの運用ルールが、排出量目標の多様性にどのように配慮しているかについて、引き続き分析を行う。これらを通じて、パリ協定の特質を明らかにする。 第2の研究目的である、「先進国と途上国の利害関係に焦点を当てつつ、パリ協定がもたらす長期的な目標達成インセンティブを、動学的な交渉分析によって解明する」については、これまでの途上国と先進国に関する想定が一般性を欠いていたことなど現実との対応をより深めるために、モデルのパーツを修正し、多数決型の交渉になる場合も含めて研究対象とし、プレッジ&レビュー方式に関する他での研究成果を対比しつつ取り込む可能性を検討し、これらすべての研究では、何らかのコミットメントが可能となっている点が、政権交代や突然の危機などから影響を受けるなどの現実とのギャップを生んでいる点を補強する方法を模索している。
|
Causes of Carryover |
2021年6月に、毎年COPの合間に行われる補助機関会合に代わるものとして、決定を行わないという意味で非公式な補助機関会合がオンラインで行われた。その他にも非公式な技術的ワークショップが各国の意見を募った上で開催された。それらは登録されたオブザーバーにもオンラインで公開された。また2020年に延期されたCOP26が11月に英国グラスゴーで開催されたが、新型コロナの影響で代表者分担者ともに直接参加できる状況ではなかったので、オンラインで傍聴した。これらにより、予定していた調査のための海外出張は行わなかった。また研究会もオンラインで開催した。このため、旅費をまったく執行しなかった。 本研究は、国際交渉の動向を把握しながら進めている。2016年に早々と発効したパリ協定はいよいよ実施の段階に入る。京都議定書がそうであったように、パリ協定も実施しながら新しいルールが加えられるだろう。そこで、COP27への現地参加の可能性を視野に入れつつ、対面で研究会を開催しながら進める。
|