2018 Fiscal Year Research-status Report
Research on the history of the Japanese TEIKEI organic agriculture movement
Project/Area Number |
18K11758
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
久保田 裕子 國學院大學, 経済学部, 教授 (90286675)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機農業運動 / 産消提携 / コミュニティ支援農業 / 日本有機農業研究会 / 持続可能な農業 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の有機農業に特徴的な消費者が参画する「提携」型の有機農業の最も早い事例は、1968年に有機農業に転換した東京都世田谷区の大平農園と「わかば会」(1972年結成)の「産消提携」である。本研究では、まず、この事例に焦点を当て、聴取りや資料収集を行うとともに、折から、同農園の今日のすがたを映像にしたドキュメンタリー『大平農園 401年目の四季』(制作バク、2018年)ができたことから、その上映会及び園主(大平美和子氏、83歳)とわかば会会員による公開座談会を実施し、歴史と現状、課題などの把握に努めた。 国際的な有機農業運動の場では、IFOAM(国際有機農業運動連盟、1972年設立)は有機農業100年の歴史を『オーガニック3・0―真に持続可能な農業と消費の在り方を求めて』という討議ペーパーにまとめており、その第3局面である2000年以降の活動は、「産消提携」と共通する理念や目的を持つ英語で言うとCSA(コミュニティ支援農業)や、第三者機関によらない信頼を基礎に据えたPGS(参加型保証システム)を拡大普及することが提起されている。IFOAMと連携をもちながら活動するCSAの国際ネットワークであるUREGNCIの第7回国際シンポジウムが2018年11月にギリシャ・テサロニキ市で開催されたので出席し、そうした国際有機農業運動の場におけるCSAやPGSの最新動向を把握した。日本有機農業研究会(1971年結成)は1978年に「産消提携」の日本各地の実践事例を基に「生産者と消費者の提携の方法について」(「提携10原則」、近年では「提携10か条」と呼ばれる)を策定しているが、その原則が世界のCSAの先駆的事例として位置付けられ、2016年に策定された「ヨーロッパCSA宣言」に反映されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「産消提携」を基軸とする提携型有機農業の歴史を振り返るには、聴取り調査と同時に、史料として日本有機農業研究会が有する同会の会誌(機関誌)『土と健康』(発刊時『食べものと健康』1972年)のバックナンバーが重要であることから、それらを取り揃えて、すぐに参照できるように整備した。今後、有機農業のもつ多面的な意義のそれぞれのテーマに即して取り出し、記録集として編纂していくことができるようになった。 テーマ毎の関係者への聴取りや資料収集については、国際有機農業運動との関係についてはギリシャでのUREGNCI第7回国際シンポジウムに出席する機会を得たことから、関連事項として調査を進めることができた。 政策的な課題とも関連するが、有機農業の推進拡大に不可欠な「有機(オーガニック)」の表示に係る基準・認証問題がある。これは欧米主導のIFOAMの活動としてFAO/WHO合同国際食品規格委員会(コーデックス委員会)に働きかけた結果、1999年に「有機生産等に関するガイドライン」として成案となったことから、日本では既存の「農林物資の規格化及び品質表示に関する法律」(当時。現農林物資の規格化等に関する法律。略称JAS法)に組み入れる形で「有機農産物」の基準認証制度が導入されることになり、特に「産消提携」により相対で有機農産物を取り扱う日本有機農業研究会や生協の一部に強い反対運動が起こった経過がある。表示問題は、その後の有機農業運動の過程で実現された有機農業推進法(2006年)の成立とその後の展開過程においても論点となっており、2018年12月には同法に基づく第二期有機農業推進基本方針の見直しが農林水産省で始まったので、その経過と最新動向の把握を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
国連は2018年12月、「家族農業の10年」(2019~2029)、及び「小農民の権利に関する宣言」を総会で採択した。これは一般に途上国向けと考えられているが、日本のような先進工業国においても共有し、国連の持続可能な発展目標(SDGs)の持続可能な農業(有機農業)と併せて日本の諸条件のもとで政策提言をしようという動きが起きている。提携型有機農業の生産者は、消費者と直接、「顔のみえる」関係づくりをだいじにしていることから、概ね小規模で地域社会に根ざす家族経営の農家である。日本有機農業研究会が中心となって50年にわたり各地で展開してきたこのような提携型有機農業運動は、その歴史と現代的意義、及び課題を明らかにすることで、これからの持続可能な食と農のあり方に方向性を与えることができるであろう。今後、研究計画にある論点に沿って、関係者・専門家への聴き取りを充実させ、関連資料も収集し、とりまとめていく予定である。
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Causes of Carryover |
関係者・専門家への聴き取りの予定が年度内に立たなかったので、次年度に実施することにしている。
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