2021 Fiscal Year Research-status Report
Vietnam - China Comradeship: Its Historical Change and Prospect for the Future
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18K11775
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 同志 / 共産党 / ベトナム / 中国 / 党・国家関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,昨年度に続き,第一に本研究の定義する第Ⅱ期(1991年~現在)のベトナム・中国間の「同志性」について,要人の発言やメッセージの交換などを中心に分析を進めた。2020年度末も含めると,習近平総書記は,グエン・フー・チョン書記長に対し,同書記長の再任を祝うメッセージ(2021年2月28日)と新年祝賀メッセージ(2022年1月25日)を送ったほか,電話会談を行った(2021年9月24日)。その内容はいずれも,両国・両党の共通性や一体感を強調したものとなっているが,習総書記はそれ以前,常に言及してきた「同志・兄弟」という語を一度も使用しなかった。これは本課題の分析からすれば,「同志・兄弟」という語を避けたいベトナム側に,中国側が一定の配慮をした結果とも受け止めることができる。ただし,習氏はグエン・スアン・フック国家主席との電話会談(2021年5月24日)においては,「同志・兄弟」に言及しているため,より正確にはベトナム側の反応を探っている段階にあるものと思われる。第二には,ひき続き,中国の主張する拡大された「同志・兄弟」関係の内容と意義を明らかにするために,朝鮮・ベトナム・ラオス・キューバ社会主義四か国に対象を絞って,比較対照を進めた。中国共産党中央対外連絡部(中連部)の最新の説明によると,「社会主義国家政権党」との関係,すなわち上記四か国との関係は中連部の所掌業務の中でも最重視されている(宋涛主編『中国共産党対外工作100年』当代世界出版社,2021年,140―149頁)。これをもとにベトナム・キューバと朝鮮・ラオスとの差異について考察すると,①資源・エネルギー協力面での重要性②「一帯一路」実現に関する重要性を,拡大された「同志・兄弟」関係を特徴づける要素として指摘することが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は習近平総書記がグエン・フー・チョン書記長とのやり取りにおいて,一度も「同志・兄弟」に言及しないという,従来になかった現象がみられた点で特筆に値するが,それは習近平総書記が決して「同志・兄弟」という語を放棄したことを意味するものではないことはすでに指摘した通りである。これに関しては引き続き両国首脳の発言やメッセージをフォローする必要がある。いずれにしても,「同志・兄弟」というキーワードに立脚しながら現在のベトナム・中国関係を分析することが重要であるとする本研究の視点の正確さが,2021年度に関してもあらためて確認されたことになる。次に,本研究の規定する第Ⅱ期における中国による拡大解釈された「同志・兄弟」の意味するところに関しては,比較の対象を社会主義国に限定した上で,引き続き分析を進めたが,基本的に2020年度に得られた結論を超えるところまでは至っていない。 最後に,本来であれば2020年度に解明を進める予定であった,第Ⅰ期におけるベトナム・中国間の「同志・兄弟」関係はベトナム・ソ連関係と比較して,実態面でどのような差異をもっていたのかという課題については,コロナ禍さらには2022年2月からのロシアのウクライナへの軍事進攻によって,モスクワへの渡航が絶望的となってしまったため,2019年度までに得るに至った論点をもって本研究の成果とせざるをえない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,本研究の最終年度として,これまでに得られた成果のとりまとめにあたるほか,まだ結論を得るに至っていない次の点について考察を進める。それは,ホー・チ・ミンの晩年に,当人も含めベトナム労働党の指導部は,第Ⅰ期の「同志・兄弟」関係からの脱却をめざそうとしていたのかどうかという問題である。具体的には1960年代末から70年代前半にかけてのベトナムの対外交渉方式,特に中国との国境画定交渉や対米和平交渉に焦点を絞り,それ以前の交渉方式と差異がみられるのかどうか,党機関紙や外交文書を中心に分析を行う。なお,2022年3月と4月の国連総会におけるロシアの軍事侵攻非難決議と人権委員会での同国の資格停止決議において,ベトナムと中国は完全に同一歩調をとった。これに触発される形ではあるが,過去(1991年~現在)の国連における両国の投票行動をチェックすることにより,両国間の「同志性」を考察するための新たな指標として設定したい。
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Causes of Carryover |
2021年度も2020年度同様,コロナ感染症のパンデミックのために,予定していたベトナムとロシアへの渡航を実現するに至らなかった。そのために予定していた旅費等を消化することができず,多額の残金を生じさせることとなった。 2022年度は,前年度までの残額1,208,109円を以下のように使用する予定である。前年度に引き続きコロナ感染の終息が見通せない状況にはあるが,渡航実現可能性の最も高いベトナムに限り,現地での文献資料調査,隣地調査,資料収集,ベトナムの中国研究者との意見交換を実施する。具体的にはベトナム(ハノイ・ダナン他)への渡航のための旅費として70万円を計上する。また,物品購入としては,中越関係,中ソ関係,ベトナム・ソ連(ロシア)関係に関する英語・中国語・ベトナム語・ロシア語の文献資料購入及び記録媒体等の購入代金として408,109円を計上する。その他,資料複写代金,郵送代として10万円を計上する。
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Research Products
(1 results)