2022 Fiscal Year Research-status Report
Vietnam - China Comradeship: Its Historical Change and Prospect for the Future
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18K11775
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 同志 / 共産党 / ベトナム / 中国 / 党・国家関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は,昨年度に続き,本研究の定義する第Ⅱ期(1991年~現在)のベトナム・中国間の「同志性」について,要人の発言やメッセージの交換などを中心に分析を進めた。特筆すべきことは,ベトナム共産党書記長グエン・フー・チョンの訪中(2022年10月30日―11月1日)に際して発出された両国共同声明において,「...『同志・兄弟』の伝統的友情は両国人民の貴重な財産であり...」と,「同志・兄弟」という語が初めて明記されたことである。これは本研究の成果から判断すれば,ベトナム側が中国側に譲歩をしたことを意味するが,ベトナム国内の公式な新聞報道でこの語は依然として登場していないことや,グエン・フー・チョン書記長の発言をめぐる両国の報道内容の齟齬,さらには中国共産党総書記習近平がグエン・フー・チョン書記長との会談時に再三言及していた「運命共同体」という語が共同声明に盛り込まれなかったことからして,現在の両国関係の質的転換を意味するものとは考えらず,ベトナムは依然として中国との間に一定の距離を置こうとしていることが伺える。また,本研究の代表者は2022年11月27日,アジア政経学会秋季大会において「ジュネーブ会議(1954年)における中ソ越三国の共同行動に関する考察」と題する発表を行った。これは,本研究の定義する第Ⅰ期の中越両国間の「同志性」の実態に係るもので,後の中ソ対立期との差異を分析する点でも重要性をもつ。1954年時点では三国がそれぞれインドシナにおける停戦と和平をめぐる主張をもっていたにもかかわらず,中ソ両国がそれをベトナムに押し付けることをせず,ベトナムの主張を尊重しつつフランスとの交渉を任せたことが,三国間の協調を可能にしたことを史料に基いて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は前述したように,中越両国共同声明で「同志・兄弟」という語が初めて記載された点で特筆に値するが,それは同時に「同志・兄弟」という語に着目しながら,両国関係を分析するという本研究の視点がいかに正鵠を射たものであるかがあらためて証明される形になった。一見すると問題がないようにとれる中越関係も,こうした視点を導入することによってベトナムの微妙なポジションを把握することが可能となる。次に,本研究の規定する第Ⅱ期における中国による拡大解釈された「同志・兄弟」に関しては,ベトナム共産党書記長訪中に続く,キューバ共産党第一書記・同国大統領のミゲル・ディアス=カネル(2022年11月24日―26日)の訪中に伴う共同声明(11月25日)において,2016年時点では使用されていた「同志・兄弟」の語が姿を消す一方,習近平の意向に沿う形で「中国・キューバ運命共同体」の構築が盛り込まれている点が注目に値する。こうした変化から,中国は「同志・兄弟」関係よりは「運命共同体」関係の方が上位に置いていることが推測される。また,中国はベトナムの周辺国に限っても,ラオスやカンボジア,タイなどと「運命共同体」関係を謳っており,ここに多数の国を引き込みたいという思惑があるようにみえる。他方,「同志・兄弟」関係を中越関係に限定しようとするわけでもなく,直近の2022年11月15日,バリ島における習近平とラマポーザ大統領との会談では,南アフリカ共和国に対しては依然として「同志・兄弟」関係が使用されており,「運命共同体」関係は持ち出されていないため,引き続きこうした区別が生ずる要因について考察を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,本研究の最終年度として,これまでに得られた成果のとりまとめにあたるほか,2022年度中に確たる結論を得るに至っていない以下の問題について考察を進める。(1)1960年代半ばから1970年代にかけてのベトナム労働党指導部の対外交渉方式とそれ以前のものとの比較による考察を行う。(2)国連総会決議でのベトナム・中国・日本の投票行動を可能な限りチェックし,ベトナム・中国間,ベトナム・日本間の投票行動一致率を算出することにより,ベトナムが中国の意向に忖度しているのか,あるいはベトナム独自の判断の結果に基づくものなのかといった点まで考察していく。(3)習近平が言及する「運命共同体」が何を意味するのか現時点では不明確であるが,判明している範囲でそのレベルや,目的とするところについて明らかにする。
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Causes of Carryover |
2022年度は,ベトナムなど現地の状況から渡航可能と判断したが,それが実現できたのは年度末に近い時期であった上に,コロナ感染症対策から短期間かつ移動を伴わない滞在としたために残金が生じる結果となった。 2023年度は,前年度までの残額506,660円を,フランスでの文献資料調査及び資料収集に使用する予定である。これは前述した1960年代半ばから1970年代にかけてのベトナム労働党の対外交渉方式を把握する上で必要不可欠である。フランスは西欧諸国としては1963年以降,中国と外交関係を有していた唯一の国であり,貴重な資料がパリの外交史料館に保存されている。
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Research Products
(3 results)