2021 Fiscal Year Research-status Report
China's State-led Development and Politics of Buddhism in Nepal-Himalaya Region
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18K11786
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
別所 裕介 駒澤大学, 総合教育研究部, 准教授 (40585650)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 仏教外交 / 一帯一路 / 国境開発 / チベット仏教 / アイデンティティの政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、現地におけるコロナ蔓延のためフィールド調査に出られない状況を踏まえ、前年度に引き続いて文献研究と学会報告に注力した。特に、2019年に訪ネした習近平・中国国家主席と、K.P.オリ・ネパール首相のトップ会談により、2027年までの竣工が合意されたチベット鉄道のネパール乗り入れ計画をふまえ、国境を越えて進む開発計画と、近代国家による「仏教外交」の関係を、前近代から継続する中央集権型辺境統治の延長線上に捕捉するための作業を、以下の2点において進めた。 ① 文献調査:現地調査資料の不足を補うため、先行するヒマラヤ地域研究の文化人類学的成果をレビューするとともに、1970年代に行われた欧米の学術調査隊による仏教文献調査についても閲読を進めた。後者については、ネパール北中部のチベット仏教圏の歴史的再編についての研究成果が豊富に見いだされるため、それらの知見の延長上に、代表者自身の直近の現地調査資料を位置づけることで論考を作成した。この成果は、2022年3月刊行の学術誌において公表された。 ② 学会報告:上記論考の成果をよりマクロな視点で位置づけるため、チベット・ヒマラヤ地域を研究対象とする多分野の研究者と共に、2回の学術報告を行った。ひとつは東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所主催のフィールドネットラウンジであり、そこでは「国境管理の歴史的連続性」という視野の元で、歴史学や言語学の論者と共同して、広く一般に開かれたセミナーを組織した。もうひとつは駒沢宗教学研究会に場を借りて、政治学の論者らと共に、南アジアにおける仏教徒の生存空間をテーマとしたパネル・セッションを実施した(第192回宗教学研究会)。 以上の研究活動を通じ、ヒマラヤ仏教圏の分断と再編において、20世紀の領域主権国家の成立がもたらした時間的・空間的なインパクトを、より包括的な視座の元で捉えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
【理由】 前記①と②の研究活動により、現代の中国/ネパール国境地帯におけるインフラ開発とそれに対する仏教徒マイノリティの受け止めについて、多面的に検討するための基盤構築を行うことができた。特に、多分野の研究者と知見を共有することで、歴史的持続性という視野のもとで現地の状況を捉え返すことができた点は大きな成果である。 他方で、フィールドワークにもとづく質的調査資料の不足は深刻であり、今年度に予定していた現地渡航を断念せざるを得なかったことで、従前の2年間で得られた現地調査に上積みして、さらなる踏み込んだ現地調査によってより多角的な検討を進めることが困難となっている。 現在も、現地インフォーマントとの間でSNSを通じたやりとりは継続しており、少なくとも2021年度末以降、ネパール国内において新たなコロナ感染の波は発生していないため、来年度夏季には、これまでの遅れを取り戻すべく、集中的なフィールドワークを行う予定である。それまで当面は、SNSを通じた現地情報の収集、並びに前記の仏教文献の歴史的価値をふまえた資料分析を引き続き進めることとし、現地インフォーマントと綿密な打ち合わせの元で、現地渡航の準備を慎重に進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
【今後の方策】 上述したように、次年度は、2020年3月以来中断している現地調査を早々に再開することで、調査地の現状を、1)「一帯一路」の元での南アジア国境地帯の勢力変動と、2)「ヒマラヤ仏教徒」の大同団結という、宗教アイデンティティに根差した社会運動の合間に位置づける作業を進める。これにより、中国の南アジア進出に伴う地域開発の持続可能性を「仏教」の扱い方から捉えるという、本研究課題の所期目標を推進し、現代の南アジアにおいて「多層的に形成される仏教徒の社会意識」について実証的な裏付けを進める。 また同時に、ここまでの研究成果をより多角的な視点から洗練していくため、国内外の学会やセミナーに参加し、専門的知見の交換を積極的に進めていきたい。さしあたり、2022年7月の第16回国際チベット学会(プラハ)での発表を予定している。また国内では、同年6月の「宗教と社会」学会、並びに9月の日本宗教学会において、南アジアの仏教実践にかかる研究発表を行う予定である。 以上を通じて、国内外の関連領域の研究者との意見交換の場を確保し、現地調査にそれをフィードバックすることで、残された研究期間で最大限の成果を上げていく所存である。ただし、今後のコロナ感染状況の推移により、十分なフィールド調査が遂行できなくなる可能性もあるため、その場合には、研究期間のさらなる延長など、抜本的な対策が必要であると考えている。
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Causes of Carryover |
当該年度の助成金の主要費目は海外渡航のための旅費で占められているが、コロナ感染の急拡大のため、当該年度の夏季および冬季の現地渡航を見送らざるを得なかった。この分の繰越額については、翌年度にフィールド調査が可能になった段階で、海外渡航旅費として計上する予定である。
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