2019 Fiscal Year Research-status Report
The social development study for preventing human trafficking
Project/Area Number |
18K11791
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
齋藤 百合子 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (10409815)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 人身取引 / 脆弱性が高い若年層 / 移民 / 女性移民 / 労働搾取 / ビジネスと人権 / ジェンダー / エンパワーメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、人身取引対策において大人と子どもの制度の間にあり、性暴力や人身取引に対する脆弱性が高い若年層の人身取引防止を、当事者を尊重しながらの支援はどうあるべきか、また政策環境の整備をどのように進めるべきか社会開発の観点から多角的に検討することを目的としている。初年度である2018(平成29)年度は、米国国務省の人身取引報告書における日本の人身取引対策において指摘されているJKビジネスなどに巻き込まれやすい日本での若年層について某民間団体の参与観察を行なった。また社会開発の観点からは、人間の安全保障とジェンダー、ビジネスと人権など開発学、社会学、政治学など学際的な観点からの文献研究及び研究会を通して検討した。 2019(令和元年)年度は、本研究が焦点をあてる人身取引の脆弱性が高い若者層とは、困難(経済的、社会的な)を抱える女性、移民や難民(男女含む)とした。また、研究内容は人身取引の防止であるため、人身取引の定義は国連の人身取引議定書が定めた狭義のものではなく、広義に捉え、性的な搾取及び労働搾取をジェンダーの差異に留意しながら、カナダで開催された移民・難民課題を扱う学際的な会議(2019年6月)と台湾で開催された世界女性シェルター会議で(2019年11月)女性支援のあり方やアプローチを検討し、調査対象としている団体の参与観察を行った。文献・資料研究では、ジェンダーに基づく暴力とエンパワーメントを促す支援のあり方を国際協力及び日本国内での検討から分析し、考察を行った。さらに、若年層の脆弱性の背景には、親世代やさらに三世代にわたることもある脆弱性の連鎖の可能性についても注目し、日本とタイの間に発生した人身取引において検証中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度(令和元年)は主宰及び協力をあわせて2回の研究会を開催することができた。2019年12月に主宰した研究会は、第一部は参加者を限定し非公開で実施、第二部は公開研究会とした。第一部では2017年に群馬県で発生したカンボジア人女性の人身取引被害者の民事裁判を担当している弁護士の報告から、国を超えた人身取引被害者の法的支援の困難さを認識した。さらに第二部では、特に日本では関心が薄れつつある人身取引課題について、国際機関、国際NGO、開発コンサルタントなど人身取引課題を実践している実践者らの発題とともに人身取引が移民課題や労働問題、ジェンダーやジェンダーに基づく暴力分野、ビジネスと人権などの課題との交差を明確にする必要を確認した。そのほか共催や協力した研究会は、日本での女性移民の脆弱性に関する内容だった。 国際会議での発表はカナダの移民・難民に関する国際会議で、日本におけるタイ人移民の統合課題について学会発表したほか、国際開発学会で日本とタイの水産物貿易の変化と水産業分野での労働搾取の人身取引課題を、国際ジェンダー学会では移民女性の健康の脆弱性に関する課題に関する研究をそれぞれ発表した。 本研究に係る調査は、引き続き日本国内の某団体の参与観察のほか、困難を抱える若者の就労支援についてのインタビュー調査を含む研究を実施した。また2019年度は若年層に焦点を当てている困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会の中間報告が出されており、議事録を含めた検討会の資料分析を行っている。さらに、国際協力実施機関における人身取引課題をジェンダーに基づく暴力や女性のエンパワーメント、若者のリーダーシップなどの観点から資料分析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2020年度は、新型コロナウィルス感染拡大や減少の見通しが不透明であるため、海外での調査や当初計画していた海外から研究者を招聘する国際会議の開催は困難であると考えている。 一方で、新型コロナウィルス感染拡大による自粛や経済不況から、若年層の脆弱性はこれまでにも増して可視化されるようになっている。2020年3月(日本で感染拡大した時期)以前と以後に留意しながら、性的搾取及び労働搾取を日本型の人身取引のパターンを捉え直す。その上で、政策的な対応をマクロな視点として脆弱性(ジェンダーに基づく差別や暴力、及び若年層に対する労働搾取)に対して、政策的にどのように脆弱性を除去し、若年層のケイパビリティを発揮させようとしているのかを分析する。さらにNGO や社会事業の企業など中間支援団体をメゾの視点とし、支援アプローチやアドボカシーを検討し、人身取引などより脆弱な状態に陥らないためのアプローチを考察する。そしてミクロな視点では、個人のケイパビリティ発現やエンパワーメントが可能となる条件を分析する。 さらに2019年度から継続している脆弱性の連鎖と社会開発など社会政策との相関関係を、人身取引課題が日本で可視化された1990年代からの30年間を日本とタイの関係を事例に分析する。
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Causes of Carryover |
2019年3月に予定していた海外調査が新型コロナウィルス感染拡大のために中止せざるを得なかった。 次年度は、海外調査に行けないことも予測されるため、海外の研究機関に調査委託を含めて、国際的な動向を把握しながら研究を進める。
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