2020 Fiscal Year Research-status Report
The social development study for preventing human trafficking
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18K11791
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
齋藤 百合子 大東文化大学, 国際関係学部, 特任教授 (10409815)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人身取引 / 子ども / 若者 / 社会開発 / 現代奴隷 / 制度的変容 / 女性支援法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人身取引対策において若年層の人身取引防止と人身取引に関する政策環境の整備を伴う社会開発の研究である。2020年度は当初計画していたタイおよびカンボジアへの海外渡航が実施できなくなったため、上記二つの課題を先行研究資料および資料分析、アンケート調査等を実施して考察を深めた。 まず、人身取引課題における重要な概念である「子ども」に関して、近代以降の歴史的な文脈から先行研究を分析した。その結果、人身取引に関する国際協定や国際条約において「子ども」という年齢や概念が一定ではなく、近代以降時代によって変化していることを考察した。また若年層の女性支援に関して、現在変容の過程にある婦人保護事業から女性支援法への動きも人身取引防止の観点から検討した。 さらに、「現代奴隷」という用語を検討した。近年、国際社会では人身取引課題が現代奴隷もしくは現代奴隷制度の部分として語られ、単独で検討されることが減少していた。そのため、「現代奴隷」という概念がいつ頃、どのように醸成してきたのか、その変化について検討した。特に英国(2015年)やオーストラリア(2018年)で人身取引対策を含む現代奴隷禁止法が締結されており、「現代奴隷」と人身取引の関連を検討することは、本研究の目的の一つである制度的変容を目指す社会開発に関する考察を深めるためにも重要であった。人身取引と現代奴隷に関する研究は2020年度国際ジェンダー学会にて「人身取引議定書採択から20年―ジェンダー視点からの意義と課題」の中間報告を行なった。 そのほか日本における人身取引に関する社会開発の経緯を考察するために、1990年代前半に複数件発生したタイ人女性人身取引に起因する殺人事件とその被告で人身取引被害者らを支援する民間の活動から社会の変化を探るべく先行資料分析とともに支援者の役割とその後の変容に関するアンケート調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度(令和2年)の研究は、コロナ禍の影響で集中した研究体制をとることが難しい時もあった。しかし、このような時期に、人身取引に関する重要な概念である「子ども」や「現代奴隷」に関する調査研究と、1904年の「白人奴隷禁止に関する国際協定」以降、約1世紀強の国際法における人身取引対策の変容に関して、先行研究を資料や文献などから歴史的、社会的、政治的な文脈で検討する機会を持つことができた。さらに1990年の代初頭には日本でタイ人女性人身売買に関連する殺人事件が複数件発生したが、事件の被告で人身取引被害者の女性たちの支援者へのアンケートおよびインタビュー調査を実施し、30年経った現在の社会変容に注目した調査を実施し、現在集計と分析過程にある。 また、困難を抱える若者(女性)に対する支援に関しては、資料文献の検討だけでなく、東京および神奈川における若年少女(15歳から20歳前後)の女性の支援に関わる団体の活動を参与観察し、コロナ禍における若年層が置かれる厳しい状況についての理解を深めた。特に困難を抱える若者(女性)に対する支援に関しては、有識者が検討を重ねていたが2019年10月に日本の厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」の中間まとめとして発表された。女性支援法成立の可能性を含むこの検討会の内容は、人身取引防止を促す社会的な制度変容(社会開発)の一事例として、分析と考察を進めている。 そのほか、ベトナムやカンボジア、タイ、ミャンマーでは、コロナ禍に加え、脆弱な立場にいる人々(山間地に住む少数民族、経済的な困窮に陥っている人、経済的困窮および政情不安など複合的な要因で人身取引のリスクが高まっている。タイやベトナムの協力団体と情報を入手しながら、研究では人身取引防止のための社会開発の条件を精査していく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は2020年度で終了予定だったが、2020年度は資料による検討以外の十分な研究調査ができなかった。2021年度も引き続き海外渡航を実施しての調査、また国内であってもインタビューを含めたフィールド調査実施の可能性が低いため、今後の研究の推進方策は以下のように若干の変更を予定している。 1 人身取引に関する重要概念に関して、研究会等を開催し、専門家および有識者との議論・検討を行う。重要な概念とは、「子ども」「若者(若年性)」「困難な問題を抱える女性」「人身取引防止」「現代奴隷」である。 2 人身取引防止に関する社会政策を、関連する国連機関(ユニセフ、UNODC、UNDPなど)や、地域別(東南アジア、東アジア、南アジア、アフリカ、米国、欧州)を比較検討する。事例として日本、ベトナム、タイ、米国を抽出し、意義と課題を検討する。 3 人身取引課題と現代奴隷制の言説を検討し、社会開発の可能性と課題を考察する。 これら2021年度の研究成果は、これまでの研究成果と統合し、積極的に論文執筆および単著執筆を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度(令和2年度)は、海外および国内ともフィールドにおけるインタビュー調査や資料購入ができなかったため、書籍購入以外の支出額が少なく助成金を使い切れなかった。 2021年度(令和3年度)は、これまでの研究成果を提示するホームページの作成および研究会やオンラインもしくは対面でのシンポジウムの開催。運営等、専門家や有識者への謝礼等の支出を見込んでいる。
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Research Products
(4 results)