2021 Fiscal Year Research-status Report
The social development study for preventing human trafficking
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18K11791
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
齋藤 百合子 大東文化大学, 国際関係学部, 特任教授 (10409815)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人身取引防止 / 社会開発 / 性的搾取 / 労働搾取 / ビジネスと人権 / 持続可能な開発目標(SDGs) / 日本 / タイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人身取引対策において若年層の人身取引防止と人身取引に関する政策環境の整備を伴う社会開発の研究である。しかし昨今、人身取引は現代奴隷制と称されるだけでなく、ビジネスと人権及び持続可能な開発目標(SDGs)の中でも言及されるようになっているが、ビジネスや国の制度の中にも発生する可能性がある人身取引はもはや2000年に人身取引議定書として採択された国際組織犯罪としての枠組みでは捉えきれなくなっている。人身取引研究の更なる深化が求められている中、2021年度の本研究は2020年度末に記した研究計画を進めるべく、以下の2つの内容を進めた。
第1に、人身取引概念の再検討である。人身取引と現代奴隷、また過去の奴隷制度や奴隷交易など、奴隷と人身取引との言説の歴史的な検討である。市民社会の台頭とともに1990年代に出現した現代奴隷という言説だけでなく、現代奴隷と過去の奴隷制度や奴隷交易を比較検討し、ビジネスと人権や持続可能な開発目標の中で提唱されている「現代奴隷=人身取引」言説をクリティカルに検討した。
第2に、人身取引防止としての社会開発の検討である。本研究における社会開発は、国際社会の対応(マクロ)、国レベルの対応と変容(マクロ)、地域レベルの対応と変容(メゾ)、そして個人のエンパワーメント概念に代表されるような個人レベルの対応と変化(ミクロ)に分けて分析する必要がある。マクロレベルの社会開発は、20世紀初頭からの人身取引対策及び関連の対策を、ポストコロニアルの視点からクリティカルに検討してきた。メゾレベルでは、人身取引における社会開発でのNGOなど市民社会の役割を含めて検討した。ミクロレベルでは従来の研究に引き続き、人身取引被害当事者による啓発活動などをフォローしようとしたが、海外渡航ができない状態では限界もあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要の1で述べた人身取引概念の再検討に関しての研究は、現代奴隷やビジネスと人権、特に英国現代奴隷法や豪現代奴隷法での現代奴隷と人身取引との関連や比較検討を進めることができている。
さらに先述した概要2のマクロレベルの歴史的検討は、1904年の白人奴隷取引禁止国際協定を端緒とする人身取引対策の形成過程と植民地化の影響について分析をした。マクロの国レベルでは、タイと日本を分析対象としているが、タイにおいては、近年の漁業関連産業における労働搾取事案から、人身取引として認定されない現状と対策として法整備などを社会開発として進められている成果と課題について分析した。また日本では、人身取引の温床と米国国務省に数年にわたって人身取引の恩賞だと指摘されてきた若年女性の性的ビジネスにおける被害と被害者支援者ら当事者の声も丁寧に聞き取りをし、これまで不在だった包括的な女性支援に関して、売春防止法を廃する検討が進み、法整備だけでなく社会における認知される機会も増加していることを社会開発と捉え、この動きをフォローし、分析を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は2023年度末までの実施が許されており、最終年度である。今年度は以下の研究及び研究発表に向けて推進していきたい。 1 渡航が可能であれば、タイでの個人(ミクロ)レベルの社会開発の実績、可能性、課題について調査を進める。 2 日本における困難を抱える若年女子を人身取引防止としての対応を精査し、人身取引防止のための社会開発として位置付けるだけでなく、子どもや若年層を包括的にエンパワーしていくための支援モデルを、広義の人身取引防止として提示したい。 3 研究成果を、人身取引対策の再検討及び改善に向かう機会となるように論文や著書の執筆作業を営為進める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために海外調査研究が不可能だったため。
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