2018 Fiscal Year Research-status Report
Nigerian diaspora and secession movement
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18K11794
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Research Institution | Nagoya University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
島田 周平 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (90170943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナイジェリア / ディアスポラ / 分離独立運動 / イボ / ビアフラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①ビアフラ内戦後のイボ人の分離独立運動の展開過程を分析し、②イボ人ディアスポラの拡大過程に関する資料の収集整理を行い、その上で海外の同郷集団メンバーを対象に、③独立運動における彼らの役割の変化や④彼らと故郷の住民との協働関係に関する調査を行い、新しいディアスポラ「先導型」の分離独立運動の展開過程を明らかにすることを目的としている。 初年度は、文献や資料収集と聞き取り調査のためナイジェリアで現地調査を行った。①、②に関してはO.-Ezeigbo著の『現代ナイジェリア政治におけるビアフラ戦争とイボ人』他多数の資料を入手することができた。③、④に関しては、東部ナイジェリアにおいて、イボ人同郷集団と故郷との関係変化について聞き取り調査を行った。しかし、ビアフラ独立を主張するディアスポラ中心の「イボ地元民」(IPOB)がテロ組織に指定されたこともあり、同組織の分離独立運動に関する聞き取りは行わなかった。 西部ナイジェリアのオバフェミ・アウォロウォ大学とイバダン大学では、西部諸都市にあるイボ人同郷集団に関する最新の研究成果について聞き取り調査を行った。その結果、国内のイボ同郷集団は他民族の同郷集団よりも活発であるが、組織運営上特に異なる点はなく、むしろ海外居住ディアスポラの同郷集団との違いの方が大きいことが明らかとなった。 この点を象徴するような事件が2019年2月に実施された大統領選挙運動の最中にもみられた。ロンドンに本拠を置くIPOBの代表カヌ(N. Kanu)が選挙ボイコットを訴えたのに対し、イボ社会の最高権威者である王(オバナエゼ)がボイコット反対を訴えて対立した。この対立は、ディアスポラと地元民の間で独立運動に関する理解と方法論の両方で大きな違いがあり、両者の政治的協同が予想以上に難しいことを示唆するものといえ、④の課題の重要性を認識させるものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年が総選挙前年であったこともあり独立運動に関する聞き取り調査は注意を要した。独立運動の拠点である東部の大学では、キャンパス内に軍隊と警察が常駐しており、テロ集団に指定されているIPOBの独立運動について自由に聞き取り調査ができる環境にはなかった。しかし、現地における状況を実体験することで、イボの人たちが日常的に置かれている政治的緊張状態を理解することができ、彼等とディアスポラの間に生まれてくる意識の違いの一因について触れることができたといえる。 2019年の大統領選挙も、地元民とディアスポラとの間の意識の差を考えさせるものとなった。この選挙期間中、SNSや現地新聞の記事を利用してディアスポラの選挙運動への関与について調査を行った。ディアスポラたちは、国際経験豊かなエリートたちに選挙資金の援助を行い、またSNSを使って積極的に支持の情報を発信していた。しかし、ディアスポラたちから支援を受けて立候補したエリート政治家は予想外の大敗を喫した。今回特に注目した候補者であるソウォレ(O. Sowore)とモガル(K. Moghalu)らの得票率は、いずれも総投票数の0.2%に満たない低さであった。これは150万人とも500万人ともいわれるディアスポラたちが、国内政治に直接関与することの限界を示したのではなかろうか。 アメリカとイギリスに住む50万人弱のディアスポラたちは毎年100億ドル近くをナイジェリアに送金し、しかもナイジェリア政府の人権侵害問題などに対しアメリカやイギリス政府を動かす力を持っているという。しかし、彼らは国内政治に関してはアプローチの方法論すらまだ確立されていない状況のようである。このような分析結果を、「ナイジェリアの2019年の総選挙」(日本アフリカ協会での招待講演)や「ナイジェリアの選択-大統領選と示されたメッセージ」『世界』で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度のナイジェリア国内における聞き取り調査では十分に行えなかったディアスポラの独立運動について今年度と来年度はヨーロッパとアメリカ(またはカナダ)で現地調査を実施する予定である。 ナイジェリア政府からテロ集団に指定されたIPOBに対する聞き取り調査が実施できるかどうかは分からないが、その可能性を慎重に検討する。しかし、最大の目的はヨーロッパやアメリカ(またはカナダ)におけるディアスポラの同郷集団に対する聞き取り調査にある。これら集団の歴史や今日の活動について聞き取りし、そのうえでIPOB等の独立運動をどう見ているのか、2019年の大統領選挙にどのように取り組み、その結果に今後どのように対応しようと考えているのか等について聞き取りを進めてみたい。連合王国ではイボの若者自警団の研究の第一人者であるロンドン大学のミーガー博士のアドバイスを得てイボ同郷人会の紹介を得、スウェーデンではウプサラのノルディック・アフリカ研究所をベースに同郷会の聴き取り調査を実施する予定である。 アメリカ在住のディアスポラに関しては今回の大統領選挙で活発な情報提供を行っていたメディア(Sahara Reportersなど)に関する情報を収集し、彼等のソーシャルメディア戦略とナイジェリア政治の関係について調査する予定である。
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Research Products
(5 results)