2019 Fiscal Year Research-status Report
Nigerian diaspora and secession movement
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18K11794
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Research Institution | Nagoya University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
島田 周平 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (90170943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナイジェリア / ディアスポラ / 分離独立運動 / イボ / ビアフラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イボ人のビアフラ分離独立運動とイボ人のディアスポラの拡大過程に関する文献や資料の収集整理を行い、加えて2019年に実施された総選挙の結果明らかになってきたディアスポラと国内政治との関係についてアメリカとイギリスにおいて現地調査を実施した。自身がディアスポラでもある在外ナイジェリア研究者や学生に会い、最近のディアスポラ社会の変化に関して意見交換を行い、さらに今回の総選挙に立候補した(ディアスポラが支持した)「若手政治家」の惨敗原因について彼らの意見を求めた。 その結果、出身地方に対するディアスポラたちのローカルな政治的影響力は拡大しているが、それは地域限定的であり経済的貢献に留まっているという理解が多かった。彼らが獲得できる名声や伝統的権威の称号の影響力は域外に波及するものではなく州政府レベルはもとより連邦政府レベルに波及するものではないという。 また、総選挙にかかる選挙資金の違いの影響も大きいとする意見もあった。ディアスポラ支持候補者がソーシャルメディアを駆使し、人権擁護、平和実現、政府の透明性・公平性の要求を訴えても、票の買収に飛び交うお金の前では無力だというのである。連邦議会議選挙や州知事選挙、州議会選挙において二大政党が投入した選挙資金はディアスポラ候補者たちのそれとは桁違いに大きい。しかも地方組織の有無も総選挙で決定的であるという。このため、選挙方法が変わらない限り州議会や連邦議会レベルでのディアスポラの影響力は限定的なものに止まるであろうというのが一般的な意見であった。 彼らの指摘は、ソーシャルメディア依存型の「若手政治家」の限界を衝くものであると同時に、それらのメディアの発信情報に注目しがちな海外メディアや研究者たちの「若手政治家」の過大評価に対する警告でもあった。来年度の調査における留意点としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年の総選挙の後に、「若手政治家」の中で最有力候補者であったソウォレが国家反逆罪の罪で逮捕(8月)され、彼へのインタビューは不可能となった。彼の政治運動の基盤であったサハラ・レポーターズ社はニューヨークにあるのであるが、同放送局がある通りには市警のパトカー2台が配備され警備が強化されていた。彼は12月25日に仮釈放されたが、政治運動は実質的に規制されている。 一方、選挙前の2018年10月に潜伏先のイェルサレムで突如姿を現した「ビアフラ地元民(IPOB)」の代表であるカヌは、ロンドンに戻って活動を再開したが選挙前の勢いはない。IPOBの拠点である東部ナイジェリアは、ブハリ政権と対立する野党(PDP)を支持したため、選挙後もIPOBの監視体制は緩むことなく継続されている。 総選挙前に注目を集めていたこれら二つのディアスポラの政治運動(「若手候補者」の立候補とIPOBのビアフラ独立運動)が、選挙後に急速に活動を低下させてきたのに対し、俄かに二期目のブハリ政権にとって重要課題として立ちあがってきたのが西部諸州における自警団)結成の動きである。毎年乾季にウシを追いながら南下する北部の牧畜民と南部の農民との衝突が2018年以来激化してきていた。そのため、政府は2018年、牧畜民が安心して定住・放牧できる「国定放牧保護区」を南部に作る構想を発表した。これを政府による土地収奪だと激しく非難する農民たちの怒りを受け、(南部にある)西部諸州の知事らが州の治安を守るため州政府直属の自警団結成に動いたのである。ブハリ政権はそれを違法だと警告しているが、州知事たちはこの結成を諦めていない。 このような国内の地域的対立は、ディアスポラが望む自由主義国家ナイジェリア建設の意思を萎えさせ、ディアスポラの本国政治に対する関心を地域的に分断する可能性があることが明らかになってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2020年度は、過去二年の現地調査の結果を踏まえその成果を学会等の場で発表し論文として成果を公表する。 本研究の課題とした、(1)ニジェール・デルタ紛争の動向調査、(2)2015年大統領選挙後の東部ナイジェリアの政治的周縁化問題、(3)ビアフラ独立運動におけるディアスポラの役割、のうち(1)と(2)は西部諸州における自警団設置の動きと連動して、連邦政府(=北部諸州)対南部諸州の対立へと拡大する傾向を示しており、そのような地域間対立を否定的にみる進歩的ディアスポラたちの国内政治への関与低下につながる可能性があると思われる。この点については出来れば現地調査を行う。 (3)に関しては、2019年の大統領選挙の結果(東部支持のPDPの敗北)、東部の疎外感は一層深刻さを増しているが、イボの人たちの関心は完全なビアフラ独立よりも、連邦体制内での自治権拡大や2023年大統領選挙におけるイボ人候補者の選出などに関心がシフトしているように見える。大統領候補者の選出問題にディアスポラがどのような形で影響力を及ぼすことができるのか、ローカルな政治運動との関連で調査したい。 2019年の大統領選挙では候補者が北部出身者として想定されていたために、南部出身の「若手政治家」候補者たちは、自由主義ナイジェリアの実現を掲げてアピールすることができたが、南部の順番であると想定されている2023年の大統領選挙で彼らはどのような運動をするのか、その動向について文献調査中心に分析を行いたい。 今年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響で、海外における調査や研究発表の機会は制限されるかもしれないが、ナイジェリアのイバダン大学や連合王国のロンドン大学、さらにはスウェーデンのノルディック・アフリカ研究所の中から一か所を選び研究成果の発表を行う予定で準備したい。
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Research Products
(5 results)