2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K11797
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
近藤 伸二 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (40735023)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 台湾の民主化 / 移行期の正義 / 独裁体制打破 / 日台の絆 |
Outline of Annual Research Achievements |
台湾の民主化に大きな役割を果たした「台湾人民自救運動宣言事件」について、当事者である彭明敏・元台湾大学教授に台湾の自宅で長時間インタビューし、詳細な内容を聞き取った。インタビューは3年連続になるが、今回で疑問点も解消し、ほぼ全容が把握できた。彭明敏氏の海外脱出に深く関わった日本人にも山形県などでインタビューし、まだ公開されていない新事実も含め、詳しい状況を聞き出し、それらを裏付ける資料も入手した。 台湾の国家発展委員会档案管理局で公文書を入手し、彭明敏氏が海外脱出した後、特務機関が米軍の関与を疑い、米軍の飛行場を調べたことや、台湾中の港に停泊する船を徹底的に調査した事実などを確認した。また、国史館で公文書を閲覧し、当時の駐米大使が彭明敏氏らを釈放し、監視すべきだと提案する公電を台北の外交部に送っていたことも判明した。これらは彭明敏氏の対する当局の対応を明らかにしたもので、「自救宣言事件」を解明する上で重要な意味がある。 日本人関係者のインタビューでは、彭明敏氏に自分のパスポートを渡して海外脱出を手助けした阿部賢一氏から当時の状況を細かく聞き取り、脱出計画に協力した理由や台湾での行動の詳細、彭明敏氏と事前に打ち合わせていた暗号や合図、脱出前の彭明敏氏の様子などを確認した。阿部氏が保管していた当時のパスポートなど、貴重な写真も撮影することができた。 蔡英文政権が進める「移行期の正義」政策についても台湾で視察・調査し、国民党資産の回収や「白色テロ」に対する責任追及などの現状や、今後も進めて行く方針を確認した。2020年1月11日に行われた総統選と立法委員選でも「移行期の正義」政策は大きな争点になっていたため、選挙戦を通じて与党・民進党と最大野党・国民党の主張を分析し、関係者から話も聞いた。この問題について、識者や関係者、一般市民にインタビューし、それぞれの受け止め方も探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度までに、「自救宣言事件」に関わった台湾と日本の関係者にはすべてインタビューすることができた。当人の彭明敏氏には3年間にわたり、毎年長時間インタビューを行い、貴重な証言を得た。謝聡敏氏は2017年に8月にインタビューを行ったが、2019年9月に死去した。インタビューの内容は歴史的な証言となっている。その他、日本の関係者はいずれも80歳代だが、快く協力してくれ、インタビューを実施することができた。 インタビューを裏付ける資料や新たな事実を解明するのに役立つ資料も、台湾と日本で数多く入手した。歴史的な写真なども集まった。 2020年1月に台湾総統選挙が行われ、民進党の蔡英文総統が再選されたが、これも現地で取材し、蔡政権が進める「移行期の正義」政策の方向性や「自救宣言事件」との絡みなども関係者に聞き、分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
予定していたインタビューや資料収集など調査・研究活動はほぼ終えたので、2020年度はそれらを深く分析したり、整理したりして、集大成となる単行本を書き下ろすことを目指す。細かな事実や年代の確認などが残っているので、まずはそれらを実施し、全体構成を考えていく。写真使用については、台湾の著作権者との交渉が必要になるものもあるので、適宜、進めていく。 単行本が完成したら、学会などで発表するほか、専門家と検討する機会を設け、歴史的意味を深掘りしていく。一般向けにも講演や寄稿を行って、できるだけ多くの人々に事実を伝えていきたい。 さらに、台湾の蔡英文政権が掲げる「移行期の正義」政策との関係などにも注目し、「自救宣言事件」が持つ現代的意味についてもさらに研究を進めていきたい。
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