2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K11802
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Research Institution | Institute on Social Theory and Dynamics |
Principal Investigator |
朴 仁哲 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所, 研究部, 研究員 (90752717)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 満洲 / 朝鮮半島 / 移民体験者 / 生活史 / 歴史社会学 / 安全農村 / 移住要因 / 移住動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植民地と戦争の歴史を生きた朝鮮人「満洲」移民の体験者の生活史を聞き取り、分析し、彼彼女らにとっての移民体験(とその記憶)の意味を明らかにする。2018年9月には、中国でフィールドワークを実施し、5人の移民体験者にインタビューした。移民体験者の生活史を複眼的に考察するため、同時代を生きた日本人の戦前世代にもインタビューを行った。2019年2月には、千葉県の特別養護老人ホームに入居している、朝鮮半島から引き揚げた1人の日本人女性にインタビューを行った。
今年度は論文を1本書き上げ、朝鮮人「満洲」移民の移住動態と関連づけて「安全農村」について考察した。「安全農村」とは、朝鮮総督府が「満洲事変」の後、在満朝鮮人を保護するという名目で「満洲国」に建設した農場である。「安全農村」が建設された地域は、無主地ではなかった。「安全農村」は中国人農民を追い出し、朝鮮人を移住させて建設された。また、「安全農村」には在満朝鮮人だけではなく、朝鮮半島から、特に南部朝鮮地域からの朝鮮人を多く収容した。「安全農村」の建設によって、帝国日本は、いわば一石三鳥の利を得た。つまり、朝鮮総督府は、過剰人口を「満洲国」に送り出すことができた。「満洲国」を支配した関東軍は、在満朝鮮人の管理が容易になった。日本政府は朝鮮人の内地流入を軽減することができた。 以上の史実を論文にまとめて投稿し、拙稿(「朝鮮人『満洲』移民の移住動態と『安全農村』」広島部落解放研究所編『部落解放研究』第25号、2019年1月)として刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度にあたる今年度は、研究実施計画に沿い、研究方法をレビューし、展開の研究を進めることができた。本研究のデータは、朝鮮人「満洲」移民の生活史の聞き取り調査に依る。朝鮮人「満洲」体験者の聞き取りには、二つの実施上の困難が伴う。一つ、聞き取りの言語が、朝鮮語・中国語であり、さらにそれを日本語に翻訳するという言語上の問題である。体験者の意味世界の深層を分析する際に、言語的な読み変えの慎重さが、とりわけ求められる。二つ、朝鮮人「満洲」移民の研究は、戦争・植民地・移民をめぐる学際的な研究となる。そのため、聞き取りの分析と解釈には、戦争研究・植民地研究・移民研究に関わる学際的な知識が必要とされる。本年度は、それらの先行研究の主な成果を、朝鮮人「満洲」移民の研究に参照して、研究を進めることができた。2019年3月に関西学院大学で開催する社会調査協会公開研究会(「質的調査における〈現実の多義性〉と〈解釈の複数性〉──矛盾と葛藤のなかの認識枠組み生成の現場から──」)に参加し、質的研究の動向や内容に関する知見を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
移民体験者の生活史を枠づけ、方向を転轍した社会状況を最大限に反映するために、マクロな歴史とミクロな生活史を往復することが必要になる。2年目では下記の研究計画を立てて研究を進めていく。 第一に、今後の研究においては、引き続き、移民体験者へのインタビューを継続する。移民体験者の生活史を多角度から分析するため、適宜に同時代を生きた日本人と韓国人の戦前世代にもインタビューを行う。 第二に、移民を送り出す側のプッシュ要因を探るため、「移民母村」についての研究を進める。朝鮮半島の「移民母村」に該当する地域(韓国の慶尚道と全羅道)でフィールドワークを実施する。 第三に、調査データの分析と論文執筆、そして所属研究会にて研究報告を行う。
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