2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on the relationship between Han Chinese subgroups and the politics of the Chinese communist party
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18K11803
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤野 彰 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 名誉教授 (60646404)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中国共産党 / 中国革命 / 毛沢東 / 井岡山革命根拠地 / 族群 / 客家 / 袁文才 / 王佐 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度中の研究により、以下の三つの主要な課題について問題点を明らかにし、原稿にまとめることができた。 (1)中国共産党は最初の農村根拠地である井岡山で、地域特有のエスニック問題である土客籍矛盾(先住民の土籍人と移住民の客籍〔客家〕人の歴史的な対立問題)に直面した。その再検証を通じて、「客家と革命」の相関関係の実態を解明できた。 (2)毛沢東が井岡山に根拠地を築くことができたのは井岡山を地盤としていた客家の土匪集団の首領、袁文才と王佐の協力を得られたからであった。しかし、共産党は土客籍矛盾に巻き込まれ、袁文才と王佐を殺害する内ゲバ事件を引き起こし、これを引き金に井岡山革命根拠地は崩壊した。同事件の政策決定過程と発生原因を、コミンテルン、中共中央、さらには根拠地党軍の影響・関与という観点から根本的に見直し、事件の新たな構図を仮説として提示した。特に、通説では毛沢東は事件とは無関係とされてきたが、毛沢東の関与の可能性を実証的に指摘した。 (3)毛沢東は井岡山闘争を通じて、客家に象徴されるエスニック問題が共産党内に持ち込まれることを強く警戒するようになり、「階級による連帯」という革命イデオロギーによって、エスニック対立と結びつく地方主義、民族主義、派閥主義を徹底的に否定した。こうして、客家は革命の表舞台に存在したにもかかわらず、「正史」では隠蔽されるという、一種の「客家タブー」とでも呼ぶべき捻じれ現象が生じた。革命史において客家が封印されるに至った経緯と背景を解明した。 「客家と革命」を切り口として、従来の客家研究、中国革命史研究の空白を埋めるという本研究の目的は一定程度達成できたと考える。研究の成果は書下ろしの原稿(400字×1000枚程度)にまとめ、草稿はほぼ完成した。成果を社会へ向けて公開すべく、出版社と相談するなど、可能な限り早い時期に単行本として出版する方途を模索中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」で記したように、井岡山闘争関連の研究に関しては、国内の図書館等で調査(入手)可能な関係史資料についてはおおむね網羅的に点検することができている。しかし、広東省における「政治と族群」に関する研究については、令和2年1月以降、当初計画で予定していた同省などでの現地調査がコロナウイルス問題の予想外の長期化によって困難になったため、研究上必要な史資料の調査・収集に支障が生じている。一部の史資料については中国の関係者の協力により入手することができたが、自ら直接調べなければ価値判断がつかないものが多く、今後の対処方法を検討しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
現状においては、今後1年以内にコロナ禍が完全に収束し、中国出張が自由に行えるようになる見通しはほぼないと考えられるため、広東省などでの現地調査は断念せざるをえなくなる可能性が高い。そうした事態を前提として、井岡山の「客家と革命」に続く研究対象を、広東省の「族群と政治」の問題ではなく、井岡山革命根拠地の延長線上にある中央革命根拠地の「客家文化と革命」に軌道修正したいと考えている。研究内容としては井岡山の「客家と革命」と連続性があり、これまでの研究を、より広い視野で発展させることが可能であると思っている。また、「客家文化と革命」に関しては個人的にすでに一定程度の文献調査の蓄積があるため、研究が比較的進めやすいという状況もある。
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Causes of Carryover |
計画していた広東省などでの現地調査はコロナウイルス問題の影響により、断念せざるをえなくなった。次年度使用額が生じたのは主として出張旅費を使用する機会を持てなかったことによるものである。今後の使用計画としては研究遂行に必要な文献資料、文具等の購入に充てるつもりである。
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