2021 Fiscal Year Research-status Report
Analysis into the Causes of the Increase in Precarious Houses in Brazil and Future Perspectives for the Solution through Financial Inclusion
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18K11810
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
山崎 圭一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10282948)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブラジル / 左派政権 / ボルソナロ大統領 / 準クーデター |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も、パンデミックの影響でブラジルに渡航しての現地調査は実現できなかったため、日本で可能な研究を中心に進めた。とくに、本研究事情の中心テーマである住宅政策など社会経済政策全体に、大きな影響を与えた事件として、2016年の政変がある。このとき労働者党政権が倒れ、極右と称されることもあるボルロナル大統領による政権が開始した。同政権下では社会政策が一定後退したが、この政変の発生要因を分析し、大学の紀要にて発表した:「ブラジルの2016年政変と政治の新しい動き」『エコノミア』第72巻第2 号(通巻190号)。ここでは、この政変を、「民主主義に覚醒した市民による腐敗した左派政権の打倒」という一般的見方を批判し、与野党の複雑な駆け引きによる「左派・中道政権」つぶしの「準クーデター」であったと規定した。 なお『ブラジルの歴史を知るための50章』(明石書店)に、ブラジルの政治と経済に関する章を2本執筆・発表したが、刊行は2022年4月のため、次年度の業績として来年詳細を報告する。その他、ブラジルの貧困政策に多大な影響を与えた経済史家のカイオ・プラド・ジュニオールの研究を進め、その考察を本の1章として執筆し、すでに脱稿済みである。発行は2022年夏以降のため、これも次年度の報告書に記す。 日本に出稼ぎにきた多くのブラジル人の永住化傾向にともない、日本で住宅を購入する動きが増えているが、住宅探しが困難で、その支援が多文化共生の新課題となっている。広い意味で、ブラジルの住宅政策の新局面である。この問題を含めた在日ブラジル人の動向を、世界最大のラテン・アメリカ研究の学会であるLASAのアジア大会(オンライン、2022年2月16日、日本時間夜10時開始)で、英語で発表した。この報告内容をふくむ論文は脱稿済みで、Springer社より英語で近刊予定である。これも次年度の報告書に記載する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ブラジルでの調査がパンデミックの影響で未実現であるため、研究調査は少し遅れているが、住宅金融政策をふくめた公共政策を実施する政府、政権の分析および野党をふくめた政治状況の分析はかなり進んだ。とくに一時39ちかい数の政党が「乱立」した「多党政治」の状況を、この間、調べた。それをベースとする多党連立政権の政策傾向―それは中道的傾向をおびやすい―を把握する必要を強く知るに至った。こうした作業の多くについて、執筆そのものは完了し、脱稿したものがおおい。発行は2022年度(同年4月以降2023年3月までの間)となるため、今年度の成果としては記していない。2021年度は、ブラジルの経済と経済史についての研究と執筆自体は、かなり進んだ年であった。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、オンラインを活用したブラジルの住宅金融関係者への取材を計画する。パンデミックの収束の展望がみえないため、できるだけ現地渡航に代替する方法での取材方法を追求する。第2に、文献や政府統計ウェブサイトの情報による分析を進める。第3に、日本に来日されているブラジルの中に、住宅金融に詳しい方がおられる可能性があるので、そういう方を見つけ出し、日本国内での取材を計画する。在日ブラジル人コミュニティについては、別途横浜市鶴見区(ブラジル人が多い地区)での多文化共生の活動の中で、接触がある。第4に、ブラジル側の研究パートナーである大学教員に連絡をとり、オンライン等によるパンデミック下での調査・研究方法について助言を受ける。以上のような方法を組み合わせて、住宅金融制度と住宅問題についての実態把握・解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
まず旅費について、2021年度も新型コロナウイルスの感染が続き、とくに研究対象国であるブラジルでの感染は深刻な状況が継続したため、渡航による現地調査は困難であった。このため海外渡航などの旅費が未執行となった。日本からブラジルへ渡航すると、国際便およびブラジル国内の移動・宿泊費用をあわせて、50万円以上のオーダーで支出が生じるが、そうした分が未実現となり、次年度使用額となった。2022年度については、感染の状況によるが、渡航による現地調査が可能となると、国際・国内の移動予算だけで、かなりの額に達するため、2022年度に繰り越された予算をふくめて、合計の予算は執行できると見込んでいる。 物品費については、研究に必要な主要な洋書(ポルトガル語含む)は、2020年までにかなり買いそろえ、それを読みこんで内容を消化する年度であったため、新規の図書購入が少なかったという事情がある。2022年度は、新規に、住宅金融・住宅政策等に関連する学術書(新刊書)を購入予定である。
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