2019 Fiscal Year Research-status Report
Effect of traditional plant utilization on the creation of regionality and the environment.
Project/Area Number |
18K11814
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大野 朋子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (10420746)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大形 徹 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (60152063)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 屋上庭園 / 園芸植物 / 外来種導入 / 住居形態 / 色 / 宗教行事 / 供花 / アーカイブ写真 |
Outline of Annual Research Achievements |
マリーゴールドは宗教利用という需要の高さから栽培され、地域の至る所で生育している。本年度は、その生育場所や状態を詳細に調査するため、カトマンズ、ゴルカ、ポカラ地域の集落での現地調査を行った。どの地域でも人口の集中する場所では、個人の居住スペースは限られ、庭の所有は難しい。そのため、人々は住居のベランダや屋上に植物をコンテナ栽培することが主流であった。都市部の一般的なアパート型居住地を調査した結果、屋上にはマリーゴールドの他に観賞用のバラやキク、ゼラニュームなど園芸植物の栽培も多く見られた。特にマリーゴールドは、種子で自然繁殖したものも良くみられる。現在のネパールの暮らしには、宗教行事用のマリーゴールドの存在がまだ目立つものの、観賞用園芸植物の導入も進んでいる。一方、これらの植物が創り出す景観がいつ頃から出来上がってきたのかを探るため、過去の様相をアーカイブ写真より調査し、照葉樹林文化研究会でその成果の一部を発表した。中尾佐助データベースから、約40年前のネパールのカトマンズ周辺地域を見ると園芸植物の栽培はほぼ見られず、屋上やベランダでの植栽も見当たらないことが分かった。また、当時の祭壇の供花には黄色のキク科植物がわずかに存在する程度で、現在のような過剰ともいえるマリーゴールドの使用は無く、少なくとも40年前には、このマリーゴールドの景観は存在していないことが分かった。宗教と植物利用との関係性をさらに論考するためバリ島での調査を追加した。バリ島はネパールヒンドゥーと類似したバリヒンドゥーを信仰しており、同じ神を祀るとしても使用する植物は異なる。バリ島でのマリーゴールドの使用は少なく、植物の「種」よりも宗教上の「方位」に関わる「色」を重要視していることが類推された。どのように暮らしに必要な種が選択され、地域に定着するに至ったのか、過去の資料のさらなる調査を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ネパールでのマリーゴールド利用の文化的背景を探るため、ネパールヒンズー教および仏教に関連する膨大な資料が必要だが、解読の困難さから植物記載を抽出する作業の遅れが生じている。また、ネパールにおけるマリーゴールドの実態から伝統的宗教行事が植物景観に及ぼす影響を一般化するため、他地域との比較を試みたが、1月以降の海外調査、国内出張が困難となったため、十分なデータ収集に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は補足テータの取得のため、ネパールカトマンズでの調査および、地域間比較として、ネパールに隣接し、異なる宗教を信仰するブータン王国あるいは今回、十分とはいえなかったインドネシアバリ島での調査を再度行いたいが、社会情勢により渡航、移動が不可になった場合は、文献資料、アーカイブ写真、これまで撮影した現地写真等の分析、解析によりデータの補完を行う。これまでの収集した沖縄での苧麻栽培の実態やネパールでのマリーゴールドの利用や植栽など現地調査と文献資料調査の結果を総合して論文を執筆、公表する。
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Causes of Carryover |
これまで行ってきたネパールでの現地調査から、その成果の一般化や精度向上を行うために当初は予定していなかった他地域との比較をする必要が生じた。宗教と植物利用との関係と景観形成を論考するため、ネパールヒンドゥー教の他、ネパールと隣接する地域であり、異なる宗教を信仰するブータン王国や、類似する宗教を信仰するインドネシアでの現地調査を予定していたが、1月以降の国際的社会情勢の問題から、短期間でのインドネシアバリ島調査のみにとどまった。そのため予定していた海外渡航費を次年度で使用することとなった。最終年度においても、海外渡航や移動の制限が生じることが予想されるが、年内での渡航が可能となれば、ブータンあるいはバリ島の調査を予定したい。海外旅費として使用できない場合は、資料調査および成果の公表に関わる英文校閲等に多く予算計上する計画である。
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