2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of fishery clusters through collaboration of fisheries processing industry in the disaster areas of the Great East Japan Earthquake
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18K11818
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
新田 義修 岩手県立大学, 総合政策学部, 准教授 (80455534)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植田 眞弘 岩手県立大学, 公私立大学の部局等, 名誉教授 (60223468)
山本 健 岩手県立大学, 総合政策学部, 教授 (10452997)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水産業クラスター / 雇用促進 / 水産加工業 / バリューチェーン / 東日本大震災津波 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、前年度に引き続き、サケ、マスなどの定置網漁業の漁獲量は、震災前と比較して低水準であった。そのため、事例地域の漁協の運営は、定置網漁業主体の経営に加えて宮古市の協力によるサーモンの海面養殖を加えた対応を始めた。なお、事例とした水産加工業者は、宮古地域のサケ、マス、イカ、ウニ、アワビなどを仕入れていることによる付加価値をつけているため、県外からの原料調達は、震災後の不漁に伴う対応として潜在的なニーズを持っている。 このような現状認識の元、企業間連携によるシナジー効果、バリューチェーン構築と水産業クラスターの再構築に関する調査研究を行った。まず、企業間連携によるシナジー効果に関する研究では、①組織の形成要因について、考察を行った。事例とした組織の形成要因は、震災復興に関わる企業の再建のために必要となる資金調達を複数企業で実施することによるメリットを認識したことから始まった。これに関連して、それぞれ得意とした製品の製造工程のノウハウを共有することによる、ロットの確保により、販路の拡大を行うことができた。そのため、工場の従業員を増やすことによる地域経済への貢献も果たすことができた。ただし、主にサケやイカの加工による商品開発をしてきた企業は、継続している沿岸漁業(主に定置網)の不漁による原材料確保を確実にするために、調達先を増やす必要を認識している。 そのため、原材料の「調達・結合」は、これまでのような共同仕入れによる形態と個別企業による新商品の開発を含めた対策が取られている。具体的には、イカの加工を主としていた企業は、イカの不漁に対応するため、タラの調達を行うことで、新商品を開発し、「出荷・販売」している。今後付加価値をつけることで、新たな収益源となることが期待されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年に引き続き、研究期間中に予定された取組そのものの進捗に問題はない。ただし、研究計画時と比較するとサケ、イカなど事例地域で分析対象としている漁獲量の減少傾向は続いている。そのため、水産加工に必要な原材料の確保に課題を抱えている経営体が多い。これに対応して、ロットの確保や販路の開拓などの連携について再編する機運が生じている。さらに、昨年の台風被害によって、加工場を中心とした施設に損傷を受けている可能性があり、ハード面の環境整備に注視する必要があろう。 本研究では、先駆的な組織が震災復興によってどのような対応を取るかについて調査をしている。個別企業の経営状況によって、組織体の方向性が大きく変わる可能性が当初より予想されていた。その意味で、昨年に引き続き、当初想定した状況になったことは、研究テーマとした「新展開」そのものであると認識している。調査研究のシナリオに依拠しながら、予定通り研究計画を実行している。 これに関連して事例地域では、漁協と企業による海面養殖の取り組みが始められた。この事例は、過去の研究で必要性を提示していたが、漁業権の設定を考慮する必要があるため、当初研究課題の中心課題から外して研究計画を策定していた。とはいえ、これまで調査を行っている企業間の水平統合に加えて、漁協が企業との連携による水平統合を経営戦略の一部に取り組み始めたことを重く受け止め、次年度以降、調査対象の一部として研究を行う必要を感じている。この要因として、漁協の定置網による収益確保が、主にサケの不漁により困難になっていることが重要である。地域経済を支える水産業・水産加工業を包括的に分析することによって、先駆的な事例との比較を念頭に置いた調査を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、主に①企業間連携によるシナジー(相乗)効果と②バリューチェーンの再構築と水産業クラスターの再構築について調査・研究を行う。 まず、①企業間連携によるシナジー(相乗)効果は、新たな資源獲得のために行うものと、新たなビジネスモデル構築を目的にしているものであった。個別企業による新たな資源獲得のための取組が見られたことから、個別企業の取組と企業間連携による取組について調査を行う。特に、参加企業の収益性を支えていたイカ・うに・アワビ等の原料調達機能や従業員の経営管理に注目したい。それらを踏まえて、個別企業の今後の方向性について調査を行い、シナジー効果の検証と個別企業主体の事業計画への協業化の波及効果について引き続き検討を加える。 ②バリューチェーンの再構築と水産業クラスターの再構築 次に、バリューチェーンの再構築と産業クラスターの再構築について調査を行う。これまで震災復興として注目されてきた商品が他の地域での震災により、相対的に注目度が低下したと想定されている。そこで、インターネット販売、企業の立地する宮古市での直売所の運営、新規の販売先としての盛岡駅中での販売の現状と課題を整理することで、企業間連携による効果が引き続きどこに現れているのかについて引き続き検証すると共に、個別に企業が取り組むべき課題について、バリューチェーンの再構築に関する側面から検討を加える。そのことにより、水産加工業からみた水産業のクラスターの再構築がどのようになされるかについて予備的な考察を加える。 その上で、単一事業のバリューチェーンを商品構成と顧客の関係として仮説を示した上で、ターゲットのコスト構造は競合企業と比較した場合の優位性について可能な限り製造原価明細をもとに事業価値評価法を用いて分析を行う。
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Causes of Carryover |
調査期間中に事例地域で台風による被害で調査地域の企業活動が滞り、調査をすることが困難になった時期があり、次年度使用額が生じた。これに加えて、1月以降新型コロナウィルス対策として、同じように現地において調査を行うことに支障が生じ、同じく、次年度使用額が生じている。現在もこの状況が続いているが、次年度使用額は、主に現地での調査のために使用する。
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