2019 Fiscal Year Research-status Report
欧州福祉国家の政府債務危機後の動向に関する社会支出の側面からの研究
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18K11819
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
伊藤 善典 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (50648326)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | EU / 福祉国家 / 社会支出 / 財政規律 / 新制度論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、統計分析や政策動向の把握を通じ、政府債務危機後における欧州全体及び各国の社会支出の動向を分析し、削減された支出の復元の有無、支出構成の変化やそれらの要因を確認し、これにより、高齢化の進展など様々な制約要因がある中で、債務危機を経験した欧州の福祉国家が今後どのような方向に向かおうとしているのか明らかにすることを目的としている。 研究初年度の2018年度には、EUの社会支出の動向に関するデータや文献の収集を行い、2019年度には、その作業を継続しつつ、データ等の分析に取り組んだ。2019年秋に社会政策学会で発表を行うとともに、研究成果の一部を論文にまとめ、学会誌に投稿した。 これまでの研究では、EU28か国における社会支出の変動とその要因を分析し、それを踏まえ、今後の社会支出と福祉国家の方向性を考察した。具体的には、社会民主主義、保守主義、自由主義といった福祉国家グループの個々の社会支出(年金、医療、介護等)は、高齢化、所得の変化などの経済社会の変動に対応する必要がある一方、価値、規範意識や制度といった各国固有の構造の下に置かれ、さらに、政府債務危機後、EUにより厳しい財政規律が課されたため、EUが推進してきた収斂の動きは止まり、それらの制約の下で、各福祉国家グループが培ってきた社会支出の特徴を維持し又は強化する方向に進んでいるのではないかと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画では、2018年度中にデータの収集・分析を終えるとともに、文献の取集・整理をある程度行うこととしていた。また、2019年度にはこの作業を継続しつつ、各国及び欧州全体の動向について分析を行うこととしていた。 2018年度については、学内の仕事や私事のため、データの分析作業が遅れていたが、2019年度においては、この遅れを取り戻すべく、夏季休暇期間等に精力的に作業を行った結果、秋口には分析作業は概ね終了し、10月の社会政策学会で発表することができた。申請時の計画では、学会発表や論文執筆は2020年度に行うこととしていたが、2019年度中に論文投稿まで前倒しで行うことができたことから、研究の進捗状況については、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、これまでの研究成果のコアを論文にまとめたものを専門誌に投稿しているところである。2020年度においては、その深化を図りつつ、また、更に周辺部分に研究対象を広げながら、研究報告書のとりまとめを行う予定である。 研究報告書については、データ・文献の分析結果のみならず、欧州の社会支出の動向に関わる様々な動き、例えば、難民危機、英国のEU離脱、新型コロナウイルスへの対応に伴う財政の悪化なども踏まえ、社会支出の面から見た欧州統合や欧州福祉国家の将来について、より突っ込んだ検討も行いたいと考えている。また、少子高齢化と財政状況の悪化という欧州と同じ問題を抱える日本の社会支出の方向性について、欧州の動向を参考にしつつ、何らかの示唆を提示することとしたい。
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Causes of Carryover |
2019年度において66,228円の次年度使用額が生じた理由は、購入する予定であった書籍の刊行が遅れ、結果として支出できなかったためである。次年度使用額及び2020年度請求分については、当該書籍を含め、研究に必要な書籍や物品の購入等に充当する予定である。
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Research Products
(1 results)