2022 Fiscal Year Annual Research Report
A Historical Study of Changing Political Rhetoric in American Democracy with Emphasis on the Presidency
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18K11822
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古矢 旬 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (90091488)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熟議民主主義 / 『ザ・フェデラリスト』 / 反知性主義 / 権威主義 / ドナルド・トランプ / 移民排斥 / 人種差別 / ネオ・リベラリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ合衆国において、民主政の実態がどのように推移してきたかを、政治的言論の質的変化に着目して解明することを目指してきた本研究は当初、①歴代大統領や議会議員の言論をめぐる歴史文献調査、及び②現代アメリカ政治や選挙政治の実態の現地視察を両輪として進めるべく構想された。しかし、パンデミックの影響により、2020年大統領選挙、また2022年中間選挙の両度とも、現地調査を断念せざるを得なかった。 その結果、当初の意図とは異なり、本研究の重点は文献研究におかれることとなったが、本年度はとくに、初年度以来一貫して検討してきたアメリカ・ポピュリズム理解の深化、なかんずくその類縁というべきアメリカ・デモクラシーとの政治史的かつ理念史的な異同の解明をめざした。到達点は以下のとおりである。 かつて冷戦期に開花したアメリカ・デモクラシーとは、「豊かな社会」が生み出した厚い中間層と多元的な利益団体とを土台とし「交渉」と「協調」を旨とする、いわゆるリベラル・デモクラシーに他ならなかった。80年代、このリベラル・デモクラシーが停滞し、中間層を幅広く受益させ得なくなるとともに開始されたのが、新自由主義的転回であった。その過度に自由競争的なシステムの帰結が、少数エリートに富と権力が集中する極端な格差社会であった。その結果2010年代には、鬱積した中間層の不満に向けて、「人民主権」と「多数派支配」といういわばデモクラシーが本来的に追求すべき原則の実現を主張するポピュリストな政治勢力が、左右両翼で台頭を見たのである。 本研究が追求してきたアメリカ民主政の言語論的な変遷過程に照らしてみるならば、ドナルド・トランプの政治的言論は、革新主義時代以降、冷戦期までの間に成立を見たリベラル・デモクラシーを越えて遡り、より直接的な人民主権の定率をはかった原型的なアメリカ・デモクラシーに近似しているといえるかもしれない。
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