2018 Fiscal Year Research-status Report
Politico-anthropological study on the relationship of protecting sacred cows and animal slaughtering in Northern South Asia
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18K11824
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮本 万里 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60570984)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブータン / 屠畜 / 牧畜 / 仏教 / 北東インド / 放生 / 牛保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はヒマラヤの牧畜社会における宗教実践に注目すると共に、現地社会における牛や羊等の家畜の屠畜や肉食に対する意識および屠場や精肉場の現状を確認した。 今年度の現地調査では、ブータン中西部寒冷高地の牧畜村を対象に聞き取りを行い、土着の自然神崇拝と動物供儀の衰退を、近年の仏教僧院による村寺の接収や大僧正による屠畜禁止令との関わりから明らかにしようと試みた。特にハベと呼ばれる西ブータンの村落地域に特徴的な供儀では、パジェと呼ばれる媒介者の不足と供儀動物の縮小(ヤクやヒツジの供儀から鶏や鶏卵へ)が進んでおり、それは仏教寺院の拡大と無関係ではなかった。供物や食肉の供給を目的とした豚の飼育も、大僧正らの勅令によって徐々に放棄され、村落地域における食肉の供給は市場への依存を高めている。 ブータン政府畜産局での聞き取り調査では、近年の北部国境での国防問題が高地牧畜民政策に与える影響を確認したほか、放生実践に対する新たな法令について資料を収集した。特に高地の家畜であるヤクを飼育する寒冷高地では、冬虫夏草採集が政府によって解禁されたことで薬草収入が牧畜収入を上回り、家畜を手放す牧畜民が増えている。ヤクに対する放生実践の増加により肉畜化が著しく困難となった昨今の状況も、若い世代に牧畜業への関心を失わせており、都市部に残っていたヤク肉食の習慣も減りつつある。今後はこれらヤクを含む牛属の家畜の放牧と宗教政策との関連についてもさらに考察を進める。 ブータンおよびインド北東部での屠畜場と屠畜者に関する調査も継続しており、その比較研究の成果を6月の日本文化人類学会および7月のヨーロッパ南アジア学会において発表したほか、国内外の各種研究会およびワークショップにおいて研究報告を行い、多くのフィードバックを得た。それらの研究報告は現在までに論文としてまとめており、近々刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題についての現地調査は、今年度はブータンでの調査に重点が置かれた。北東インド地域に関する調査は、今年度は資料収集とその分析に力点が置かれた。現地調査を実施てきる期間は限られていたが、短期間に効率的な調査を実施することができた。 ブータンでの調査は、当初の計画以上に順調に情報収集が進んでいる。調査は夏季(9月)と冬季(2月)の二回に渡って実施された。一回目の調査では牧畜村の下調査を行い、二度目の調査ではより範囲を広げて聞き取り調査を行うことができた。調査では村人への聞き取りのほか、地域の宗教者への聞き取りを多数実施することができた。また、畜産局官僚へのインタビューでは、ブータン政府の高地牧畜民政策についての仮説を実証することができた点で大きな進捗があった。 北東インド地域の調査は、前年度までの下調査の記録の整理と分析を行い、そこから考察を大きく進め、数回の学会発表および研究発表を行うことができた点で進展があったと言える。特に、ヨーロッパ南アジア学会をはじめ、国際学会での研究報告では多くの人々の関心を得ることができ、北東インド地域の屠畜習慣と宗教実践および民族祭祀に関する調査を継続する必要性が明らかとなっている。 これらの点を考慮して、本研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、ブータンおよび北東インドでの調査を継続すると共に、収集したデータ(映像データを含む)の分析編集作業を進める。海外渡航調査期間の短縮が必要な場合であっても国内での作業が滞ることのないよう、データ収取を効率よく進めることを目指して計画的に渡航計画を作成する。また、国内外での研究報告を継続的に行い、多様な分野からのフィードバックを得られるよう務める。 ブータンでの牛属の調査は、高地でのみ生息可能なヤク飼養を行う高地牧畜民への接触が、彼らが南下する冬季に容易になるが、夏季のヤク飼養の現状と秋にかけての屠畜習慣を把握するため、可能であれば夏季の間に4000メートル以上の北部高地での調査が可能となるよう、現地研究機関等との調整を進める。またそのために、ブータン現地社会の研究者との研究連携を計画しており、2019年度中に調査計画を提出する予定である。 ブータン国内での屠畜施設に関しては、国境を挟んだインドのアッサム州との間の家畜の運搬や肉の流通に関しての把握がまだ十分に達成されていない。そのため、インド国境のプンツォリンでの調査を可能な限り遂行する。 北東インド諸州の屠畜と宗教政治との関わりに関しては、キリスト教信者が多数を占め聖牛保護政策の影響が届かないナガランドやメガラヤと、アッサム州との違いが明確になっている。今後はナガランドのミトゥンなど他の牛属(bovine)の屠畜も視野に入れつつ、牛信仰の背景と地域間の差異を明らかにする。また、アッサム州では、今後の選挙での政治動向によって対牛政策がいかに変容するのかに注視していく。インドの牛政策は現在のインド人民党による政治動向に依存する部分が大きいため、選挙動向にも注意しつつ、北東インド地域社会における宗教と屠畜の関わりについての全体像の把握に務める。
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Causes of Carryover |
今年度は、本務校の業務等によって海外調査期間の短縮が必要となった点、および研究協力者への依頼が当該研究者の事情等で延期となった点などが理由で、当初の使用予定額を下回った。これらの差額に関しては、2019年度の渡航調査および研究協力者等への支払いに充当する予定である。
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