2021 Fiscal Year Research-status Report
Politico-anthropological study on the relationship of protecting sacred cows and animal slaughtering in Northern South Asia
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18K11824
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮本 万里 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60570984)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 仏教 / アニミズム / 牧畜 / 聖牛保護 / 動物愛護 / 屠畜文化 / 北部南アジア / ブータン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、未だ新型コロナ感染の拡大が収束せず、昨年度に引き続き、研究計画に沿ってブータンを含む北部南アジア地域で現地調査を遂行することが困難となった。しかし、これまでに収集した現地調査のデータの整理と分析及び、新聞や政府刊行物の分析を引き続き行いながら、一定の成果を出すことができた。 聖牛保護と信仰に関する調査では、ブータン牧畜民の屠畜文化と仏教徒によるウシ・ヤクに対する放生実践の関わりを宗教ナショナリズムの文脈で読み解いた論文を国外の研究者2名と共同執筆し出版した。また、ブータン高地牧畜民の垂直移動を生業における重層性から一般向けに解説し、写真集の一部として出版した。さらに、動物や昆虫を含む人間以外の生物と人間との関係性を考えるマルチスピーシーズ人類学の観点からも、北部南アジアの信仰や儀礼と動物との関わりをあらためて考察し、インド北部山岳地域をフィールドとするインド人研究者らとインタビュー形式の議論を展開させたほか、ブータンの山村で収集した自然環境や生物と人との相互関係と儀礼との関わりについて考察した。 その他、日本南アジア学会のオンライン全国大会では体制移行期ブータンの宗教と王権に関してパネルを組織した。ブータン人研究者を報告者として招聘し、東南アジア地域の研究者もコメンテーターとして迎え、地域間比較の観点から有意義な議論を行った。特にブータン社会における金剛乗の仏教僧院や自然神崇拝が動物の屠畜や保護に果たす役割に関しては、東南アジアの上座部仏教諸国の事例と比較することで多くの示唆が得られた。北東インドの事例に関しては調査実績が少なく、インドでの現地調査が困難な状況下ではデータ分析に大きな進展はみられなかったが、現地研究者や協力者とのオンラインでの対話やインタビューを行いながら分析視覚の見直しをすすめ、現地調査の再開に備えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題は、インド北東部およびブータンでの現地調査を柱として計画されているが、コロナ禍による本国の渡航規制や対象国の受け入れ体制が整わない状況が一昨年から継続しているため、渡航調査が実施できない状況が続いている。ブータンに関しては、これまで自身で行った聞き取り調査のデータ、及び現地の協力者を介したオンラインインタビュー等によって得た最新のデータの整理と分析を進めることで一定の成果を出すことができた。しかし、北東インド地域での調査実績が不足しており、十分な成果を出すことが難しい状況である。したがって、研究計画の実施は当初の計画よりも遅れていると言わざるを得ない。現在は、来年度の渡航調査の可能性に期待しつつ研究計画を点検し、最終年度の成果報告にむけた調査範囲の再検討をおこなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においてはブータン及び北東インドにおける現地渡航調査を再開し、過去2年間のコロナ禍による渡航規制で行えなかった現地の聞き取り調査を実施する。それによって、2019年度末までの調査をもとに研究報告を行なった牧畜社会と農耕社会の関係性に関連するいくつかの研究分析をさらに深化させるとともに、コロナ禍でもたらされた社会経済的影響も踏まえながら、家畜と人、神々との関係性をより包括的に捉え直すことのできる理論的な枠組みを構築したい。 ブータンでの現地調査では、北部高地牧畜民社会におけるヤクやウシの家畜飼養と農耕社会、そして仏教僧院との関わりに関する調査を継続するとともに、南部低地では、肉食用のウシやブタを専業的に飼養する小規模な企業家の台頭と、屠畜業者が構築する家畜収集ネットワーク、そして仏教僧院による家畜救済のための放生実践との相克を聞き取りによって明らかにしたい。また、北東インド諸州のアッサム州とメガラヤ州、ナガランド州、アルナーチャル・プラデシュ州などでは、インド政府による聖牛保護政策が、在来のウシやミトゥンなどの大型家畜の飼養と食肉化に与えた影響を、家畜交換や屠場文化の変容から明らかにしたいと考えている。これらの調査にあたっては、2年間以上にわたるコロナ禍が北部南アジア社会にもたらした影響を考慮しつつ、生業と階層意識、自然観と衛生観、集団観と信仰との関わりについての変化を柔軟に、かつ丁寧に考察していく必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度は新型コロナの感染拡大が収束せず、調査対象地域であるインド及びブータンへの渡航調査が再び不可能となったため、海外旅費を使用することができなかった。また、感染予防の観点から国内移動の制限が一部継続され、昨年に継続して学会の年次大会や研究会が全てオンラインで開催されたため、国内旅費を使用することがなかった。以上のことから、次年度使用額が生じている。2022年度は新型コロナの著しい感染収束は見込めないものの、ワクチンの普及や対処薬の開発によって渡航可能性は高まっているため、夏までには海外渡航が実施できる環境になることを期待している。したがって、次年度使用額は、主に海外渡航費用と調査協力者への支払い、及び物品費として使用する予定である。
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